第3話 ベンチにはだれも座っていない

 坂道を下りて行くと畑がある。夏になるまではネギか何かひょろひょろしたものが貧弱に育っていたのだけど、いまは何も植わっていない。

 その先に、昔は店だったらしい建物がある。二階には色の落ちたコーラの大きい看板が貼ってあるが、店の一階は木や金属の戸が閉まっていて、なかは見えない。

 その横で下り坂は終わり、バスの走る通りに出る。

 バス通りといっても、車線も何もない、いちおう舗装ほそうしてあるだけの道路だけど。

 急角度に曲がっているその角に四角い石柱が立っている。

 すみれだい高校はこちら、という道しるべだとずっと思っていたが、どう見ても高校よりもこの石柱のほうが古い。じゃあ何が書いてあるか、などということは、もっと気候がましになってから調べよう。そのときまで覚えていれば。

 その石柱の少し先がバス停だ。

 ここのバス停には金属の波板で屋根と壁とを作った粗末な待合所もある。

 こういうのを掘っ立て小屋とかいうのか?

 しかし、建物であれ小屋であれ、とりあえず屋根がついているだけでも、いまは感謝しないといけない。

 バス停の円い標識のところで、次のバスの時間を確認する。

 一二時台は……。

 一二時五一分。

 時計を確かめる。

 いまは一二時一四分。

 ま、一二時に閉まるという図書室で久江ひさえ先生としばらくしゃべってから出てきたのだから、こんなものだろうけど。

 三十七分待ち……?

 「ほんと、かんべんしてよぉ……」

 学校に戻ろうかと思った。

 でも、午前中、図書館委員として詰めていた図書室はもう閉まっている。久江先生ももう戸締まりしてしまっただろう。教室には、当然、冷房も入っていない。職員室に行けば冷房は入っているだろうけど、「外、暑いんで、涼みに来ました」で行っていい場所かどうか。いい場所ではないだろう。

 しかも、あの学校に戻ろうとすると、いまの坂道をもういちど上らないといけない。それだけで汗でべたべたになりそうだ。

 冷房はないけど、バス停の小屋に入って待とう。

 三十分ちょっとなら、耐えられる。

 小屋には木のベンチがある。とりあえずベンチに座ろうと思って小屋に入る。

 外から見たところでは、ベンチにはだれも座っていない。

 こんな暑い時間、だれも出歩かない。

 バスだって、一部の登山客と、十郷そごう温泉や山を越えた向こうの温泉のお客さん以外は乗らないから、いつもがらがらだ。

 いつもがらがらだ。

 が。

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