第39話 ※※月

第37話「勉強会」にて、同じ話を連続してしまうミスがありました。

大変申し訳ありません。

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 教室がにぎやかになり、テスト結果が張り出される。

 私はテスト結果をワクワクした気持ちで見に行った。


【二年生中間テスト順位】


一  天野 月  四八一


二  椎名 藍里 四七五


三  七瀬 渡  四七四


「すごい月ちゃん! 一位だよ」


 そうやって野放しに褒めてくるのは、私の親友……親友でいいよね?如月萌ちゃん。


「いえいえ、それほどでも」


 私は謙遜しながら、そういう。


「いやいや、天野さんこの順位は謙遜しなくていいって」

「学年三位がなにいってんだが」


 それはそうですね……学年三位。

 渡さんは萌ちゃんに二人でテニス部のエースを張っている。部活のせいでそこまで勉強の時間がとれないはずなのに、この順位をキープしているのは素直に尊敬する。すごいなぁ……。


「てか、陽斗は何位だったんだよ」


 そういわれた陽斗君が、自分の順位を探し始める。

 ちょうど見つけたのか、そこを指さす。


三十三 今村陽斗 三八八


 三十三位。意外と高い。


「なかなかの高順位だと思いますよ。進学校のここでこの順位は」

「そうだな。しかも今年は合併で生徒数も多くなってんのに」

「一位と三位にいわれても嬉しくねぇ」


 それはそうですね。と思い私は微笑を浮かべた。

 たしかに、自分より順位が高い人に褒められたくはないか。


「さ、そろそろ教室戻ろうぜ」

「お、おう」


 少し気がかりになりつつも、俺たちは教室に戻った。

 ちなみに、陽斗君がさっき、視線がどうこういっていたが、よく聞こえなかった。



 ◇ ◇ ◇



「……めずらしく、一人ですか」


 七月三日、テスト結果発表の翌日。

 私は誰もいない教室で、帰りの支度をしていた。


 隣の呪いだったり、萌ちゃんが誘ってきたりするので、今回のように一人で帰るのは久しぶりだった。


 萌ちゃんと渡さんは部活。陽斗君は少し買い物があるとか。

 まぁ、それらがなかったところで、私が先生に用事があったため、結局は一人で帰ることになっていたが。


 私は昨日のテスト結果での会話を思い出していた。


『いえいえ、それほどでも』


 あの場ではそういったものの、私は内心自慢げだった。


 いや、以前までは本当に「それほどでも」だった。

 いつもいじめられていて、学校でもうまく友達もできなくて、家にあるのは教科書と使い古されたボロボロのおもちゃ。だから、勉強するしかなかった。《あの人》からお金はいつも送られてくるけれど、極力使いたくなかったし、私が社会で成功して、見返してやろう。そう思っていた。


 勉強はただ自分の評価を上げるツールでしかなく、それは運動に関してもそう。自分の評価を上げるツールとしか考えていない。だから、勉強も運動も嫌いではないけど、好きでもなかった。


 だけど、今は本当に勉強が楽しくなっている。友ができたからだろうか。心に余裕ができ、勉強が楽しいと思えるようになった。


 それは運動に関してもいえる。

 五月に行われた体育祭。いつもなら、興味すら示さなかった実行委員。それをやってみたいとあの時思えた。


 結果敗北してしまったが、いい経験にはなった思う。あと一年、つまり三年生でリベンジしよう。今とクラスは変わってしまうが、リベンジを果たしたい。


 話が逸れてしまったが、本当に、このメンバーに出会えてよかったと思っている。


 できることなら、高校を卒業しても連絡を取り続けたい。なんなら、生涯あのグループと付き合っていきたい。

 ……ちょっと重すぎるか。


 でも、それくらいにはあのグループは楽しくて心地いい。

 このまま家のことくらい忘れることができたらいいのに――。


「ねぇ」


 しかし、そんな淡い願望はすぐに崩れる。


 嫌というほど聞いた、その低く切れ味のある声に私は拒否反応を覚えた。

 今すぐ逃げ出したいのに、体がすくんで動かない。


「あんた、最近調子のってるよね。ちょっと目障りなんだけど」


 こうやって相手が一方的に言いがかりをつけてくる。

 私は反論したいが、反論できない。これもあの時から変わってない。

 子どものときと同じだ。


 だけど、私は変わった。

 友達ができて、親友ができて、変な隣人もできて、私はかけがえのない学校生活を送っている。

 だから、もう屈しない。あの頃になんか戻りたくない。


「私は――」

「うるさい。浮気の子がほざくな」


 喉元まででかけた言葉が、でない。


「そうだよ、あんたは浮気の子。《本筋》の私に浮気の子ごときが口答えするな!」


 ああ、そうだ……私は浮気の子。

 結局、私自身はなにも変わってない。


 変わったのは周りだけ、それを自身の成長と勘違いした。

 ゆっくりと、ゆっくりと、自分が壊れる音がする。


 いつまでも私は天野月。

 ―—いつまでも私は「天野」から逃げられない。

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