第13話 危機
「どうしたの陽斗?」
「もうすぐ始まるぞ」
まずい。これはまずい。
渡と萌がいる前で天野と隣になってしまった。
このままでは、二人に隣の呪いがバレてしまう。
俺たちに危機が訪れていた。
不思議そうな顔で二人が、俺のほうを覗いてくる。
まずは、渡と萌を何とかしなければ……。
「な、なんでもない。そんなことより、このポップコーン美味しいな」
かなり無茶な誤魔化し方だが、上手くいったのか二人は追及をやめてきた。
映画館は暗くなっていたので、天野の姿は見えてなかったらしい。
ホッ……と一息つきながら、天野に周りに聞こえない範囲で、天野に話しかける。
(どうしてここにいるんだ)
(その理由は分かっているでしょう? 隣の呪いです)
(またか……)
(もう慣れましたけどね)
(慣れてたらいいんじゃないって、もんじゃないけどな)
本当、この呪いどうにかしてくれ。
(というか連絡したでしょう?)
連絡した、と言ってるのはさっきのメッセージのことだろう。
流石にもうすぐ映画が始まるという中で、改めて確認はできないが。
(さっきだけどな。直前に連絡されても対応できないぞ)
(あなたは、そもそも連絡すらしてなかったじゃないですか)
(すみません)
そういえば、完全に天野に連絡するのを忘れてしまっていた。叱られるべきは俺のほうだな。
しかし、今更後悔したところで、事態は解決しない。
天野は連絡が遅れ、俺はそもそも連絡を忘れてしまったせいで、渡と萌がいる前で隣になってしまった。
このままでは、隣の呪いが二人にバレてしまう。
作戦会議をもう少ししたかったが、もう映画が始まってしまった。
映画が終わったら、急いで対策を練らないといけない。
本当に急いでだ。
◇ ◇ ◇
泣いた。それに尽きる。
もともとの原作ですら号泣シーンだったのに、アニメとなると感動も格別である。 ネタバレはできないため、これくらいにしておくが、正直語り足りない。あとで、他の人に聞こえないところで、渡と萌と語り合ったり、ネタバレを含んだ反応集など見てこの興奮を共有しよう……。
それは渡と萌も同様なのか、二人とも涙が溢れ、止まらなくなっている。
それほど感動的な映画だった。
ほら、天野もハンカチで目を抑えて……天野?
映画に気を取られてすっかり忘れていた。今は渡と萌がいる前で天野と隣になっている危機的状況である。
このままでは二人に隣の呪いがバレてしまう……。
しかし、時すでに遅し。
「て、え、聖女様⁉」
「……まじか」
終わった……。
このバレをきっかけに、学校で一気に隣の呪いのことが広まり、俺は血祭りにあげられるんだ……。
今村陽斗先生の次回作にご期待ください。
「偶然! 私、同じクラスの如月萌! 覚えてる?」
「は、はい……。覚えてますよ、学級委員長をしていたので、覚えています」
「覚えててくれてたんだ! 嬉しい!」
あれ?
「どうしたんだ陽斗? そんなこの世の終わりみたいな顔して」
あれれ?
隣になったこと気にされてない?
俺の様子が気になったのか、天野が俺に耳打ちしてくる。
(なぜそんな絶望してるのですか?)
(いや、だって……隣になるとこ見られたから、隣の呪いがバレちゃっただろ?)
(……バレてはなくないですか?)
え?
(私たちは、当事者なので、学校の席や家や登校中、図書室などで隣になってることは知っていますが、二人はそのことを知らないでしょう? 二人にとっては、ただ学校の席と映画館で隣になっただけです。二回、隣になったくらいで隣の呪いのことは見抜けないと思いますが……)
確かに。
この二つの少ない情報で、隣の呪いを見抜くのは不可能に近い。
この場面に立ち会っても、二人はただの偶然と捉えるはずだ。
……やっべ! 超恥ずかしいんだけど! 一人で勝手に心配してた、俺が馬鹿みたいじゃん! いや馬鹿だわ! ここが家なら、一人でベットで転がりまわってたよ!
俺が心の中で羞恥に襲われていることを気にせず、萌は天野を質問攻めにしている。
「天野さんも妖滅見るんだ! 好きなキャラとかいる⁉」
「え、えっと……」
「他には普段はどんなの見るの⁉ オススメとかある⁉」
押しがすごい。
天野がしどろもどろになってんぞ。
前から薄々思っていたが、天野は割と人見知りなのだろう。
俺と二人きりのときに比べ、あの占い師と会ったとき、口数が極端に少なくなっていた印象があった。俺と初めて話したときも、そこまで喋っていなかった気がする。
放置していても仕方がないので、止めに入ろうとするが、先にもう一人の男が動いていた。
「はい、ストップ」
喋りすぎていた萌を、渡が頭をコツンと叩き静止させる。
そこそこ痛かったのか、萌が頭を抑え、渡のほうに向く。
「なにするの!」
「押しが強い。もう少し、天野さんのペースを考えろ」
言われて気付いたのか、すぐに萌は天野に向きなおる。
「ご、ごめん! 渡の言う通り、自分のペースで話してた!」
頭を下げ、天野に謝る。
「大丈夫ですよ、気にしていません」
「本当?」
「ええ」
天野は萌を安心させるのもあるのか、にっこりと微笑んだ。
その微笑みは美しく、思わずこの場にいる全員が見惚れてしまった。
「では、私は行きますね」
その言葉で、全員のフリーズが解けた。
まぁ、行ってくれたほうがボロが出ないので助かる。
ひとまず危機が去って良かった……そう思っていたのだが。
「ちょっと待って!」
萌が天野の制服の裾を掴み、引き止めた。
「ねぇ……せっかくだし、お茶しない?」
もう少し、危機は続きそうだ。
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