【第二章】ネクスターズ結成

第12話  映画館で隣に

 ――あれから、数日が経った。


 あれからも、俺たちは隣になり続けた。 登校中、下校中、学校の中、散歩中、買い物中、他にもたくさん――いや、多い多い。


 ただ、慣れというのはすごいもので、ここ最近は隣になることに驚きもなくなり、日常の風景の一部となっていた。

 さらには、「隣になったら、すぐ離れる」、「できるだけ、行き先を報告して、隣になるのを避ける」というのを意識したことにより噂が立つことも防ぐことができている。


 聖女様と席が隣になっていることには、男子たちから羨ましがられているが、まぁそれは、許容範囲だ。


 連絡のために、連絡先を交換したが、これも、下手なことをしない限り、他の生徒にはバレないだろう。


 そして、俺と天野は周りに人がいないときには、雑談をするくらいにはなっていた。

 あと、たまに迷った天野を送り届けることもあるが……そこは置いておこう。


 ともかく、俺たちは隣の呪いを抱えながらも、無事に学校生活を送ることができていた。 


 そして、ある日のこと。


「今日の放課後、みんなで映画館に行こうよ!」


 萌がそう言ってきた。


 入学式の日、俺が道で迷っている渡と萌を案内したことにより、自然とできたグループだが、その関係はなんだかんだで続いている。

 そのことに特に不満はないが、しいて言えば目立ちすぎるということくらいだろうか。


 この幼馴染二人組は、学級委員長に立候補し、一気にこのクラスのカースト上位に躍り出た。


 渡は、顔立ちの良さと誰にでも優しく接するからか、かなり女子にモテている。それを妬んでいる生徒も、実際に渡と話をすると、コロッと篭絡ろうらくしたりする。流石というべきか。

 まぁ……萌は渡がモテていることに不満そうだが。


 そして、萌は、いつも明るく元気で、クラスの太陽という感じだ。かなりスキンシップが多いせいか、勘違いする男子が続出しているとか。哀れである。そんな感じで萌もかなりモテている。

 まぁ……渡は萌がモテていることに不満そうだが。


 もう付き合っちゃえよ。


 閑話休題。

 映画に行こうという話だったか。


「いきなりだな……」


 明日、明後日などなら分かるが、今日の放課後というのはずいぶん急だ。


「いやー、顧問の先生が風邪かなんかで、部活が休みになったんだよ。それで暇になったから、せっかくなら遊びに行こうって。ほら、俺たち、学校ではよく話たりするけど、外で遊びに行ったりはまだしたことないだろ?」

「確かに……」


 いつもは、二人の部活が忙しいということもあり、放課後はあまり時間を取れていなかった。土日も同様だ。

 だから、遊びに行くこと自体は賛成なのだが……。


「お前ら、二人きりで行かなくていいのか?」


 二人は、お互いに好意を持っている。

 そこに俺がいてしまっては、お邪魔虫ではないだろうか。


「は、はぁー⁉ こ、こいつと二人きりー⁉ 勘違いしないでくれない⁉ め、迷惑なんですけど!」

「そ、そりゃこっちのセリフだ! ひ、陽斗、余計なこと言うな!」

「ちょ、迷惑ってなによ!」


 二人は顔を赤くし、必死に否定した。


 うーむ。分かりやすいツンデレ。

 やっぱ付き合っちゃえよ。

 

「悪かった悪かった。今日の放課後だな? 俺でいいなら付き合うぞ」


 二人とも、話を変えたいのか、すぐに俺の言葉に反応してきた。


「わ、わかった! なら、今日の放課後、門の前で落ち合おう」

「そ、そうね。あー楽しみ!」

「ほ、本当楽しみ」


 どんだけ話変えたいんだ……必死すぎだ。



 ◇ ◇ ◇



 そして、今日の放課後。

 約束通り、門で落ち合い、少しの雑談を交わしながら映画館に向かった。


 行先は以前、占い師がいたショッピングモール。

 このショッピングモールは、かなり広く、多くの店が立ち並んでいる。

 さらに、上の階には、映画館がある。そこが俺たちの目的地だ。


「そういえば、今日は何見るんだ?」

「えーとね……。『妖滅の刃 有限城編』だよ!」


 その作品名には聞き覚えがある。

 確か、公開10日で興行収入が100億を突破したことで、話題になってた映画だ。

 かく言う俺もアニメは欠かさず見てるし、漫画も全巻持っている。

 どこかで映画も見に行きたいと思っていたところだ。ちょうどいい。


「これ本当面白いんだよな。原作が面白いのは第一のこと、アニメの映像美や脚本が毎回毎回すごいし。まじでクオリティが高いんだよ」

「ほんとそう! 毎回、ドーンってなって、グワーッってなって、最後にはウルウルだしね」


 二人の説明の差がひどい。

 まぁ、それくらい楽しみにしているということだろう。


 そんな感じで会話を楽しんでいたら、映画館に着いた。

 壁にはポスターが貼られ、今日見る映画以外にも、たくさんの映画の宣伝がされている。


 席を決め、ポップコーンなどを注文し終えたところで、俺たちは映画館の中に入った。

 少し注文に手間取っていたせいか、既に館内は暗くなっていた。だが、まだ広告の段階なのでセーフだろう。


 手前から渡、萌、俺の順で座る。

 いくつか荷物を整理していると、ピコンとスマホから通知音がなった。マナーモードにしないとな、と思いながら、画面を見ると天野からメッセージが来ていた。


『今日映画館に行きますね。すみません、送るの遅れてしまいました』


 というメッセージが来ていた。

 これは、隣にならないための対策のためのメッセージだ。できるだけ、行先を伝えることで、隣にならないようにしているのだが……。


 ちょっと待て……、俺報告のメッセージ送ったか? しかも、映画館?

 スマホをマナーモードにしてから、恐る恐る隣を見た。


「あ」

「あ」


 まぁ、分かっていたが、天野が隣の席に座っていた。

 ただ、それに対してはあまり驚きはない。天野と隣になるのは、日常茶飯事だからである。


 しかし、今回はいつもと決定的に違う点がある。


「どうしたの陽斗?」

「もうすぐ始まるぞ」


 そう、今日は渡と萌がいるのだ。

 このままでは、隣の呪いのことがバレてしまう。

 俺と天野に最大のピンチが訪れていた。


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