うわさのまじょ

マヒカハシ

第1.0話 うわさ

「これで最後かな」

 卯月うづきは友達と会う前に宿題を済ませるようにしている。友達と遊んで家に帰っても、宿題をしなくていいからだ。

「ママー。ゆみちゃんと駄菓子屋さんに行ってくるー」

「はーい。お財布忘れないようにね。気を付けて行ってくるんだよー」

「うん!いってきまーす」

「いってらっしゃい」

 家から歩いて数分のところに公園がある。

(まだ来てないか)

 公園の時計を見る。事前に決めておいた時間までに公園に来なかったら、今日は遊べないということにしている。

(思ったより早く来ちゃった。もう少しゆっくり考えてもよかったな)

 ベンチに座って待つことにした。

(今日の漢字は画数が多いのがあったな。算数の宿題も難しかったな)

 授業と宿題のことを考えていると、優美ゆみがやって来た。

「やっぱり早いね。今日の宿題ちょっと難しかったのに」

「漢字はいっぱい書くだけ。算数は、分かんないのはやってないからね」

「そうなんだ。分からないところあったけど、待たせちゃうからやめちゃった。帰ったら教科書とノート見ながらやってみるつもり」

「すごいね。私だったら、少し考えても分かんなかったらすぐ諦めちゃうよ」

(ゆみちゃんのテスト点数、いつも平均より20点くらい上だもんね。私も諦めないでもう少し頑張ってみようかな)

「行こ」

「あ、そうだね」

(遊ぶんだもん。宿題のことは後で考えよう)

「今日は何食べる?」

「アイスとジュースかな。ジュースは宿題しながら飲みたい。うづきちゃんは?」

「クーピーラムネにしようかなって思ってたけど、アイスもいいな~。そうしようかな~」

 卯月は上を向いて考える。

「じゃあ、ラムネとアイスとジュースにする。アイスはゆみちゃんと同じのにする」

「だったら、うづきちゃんと同じジュースにするよ」

 2人は今日の出来事や、昨日のテレビの話をしながら歩いた。気づけば駄菓子屋に着いていた。

「コーラ。アイス何にする?」

「がりがりのソーダ」

「がりがりと、ラムネと……」

 卯月はある一点を見つめたまま硬直した。

「どうしたのうづきちゃん」

「あ、あれ」

 何かを指さす。優美はその先にあるものを見る。

「……ポテチ?」

「だ、だめだぁ~。コーラ持ってると欲しくなるぅぅ」

 自分だけ買い過ぎているから、買うのに少し気が引けているらしい。

「うーーん。帰ってからコーラとポテチで、ラムネは一緒に食べよ」

「ありがとう」

 欲しい物を選んで購入し、店先のベンチに座る。

「やっぱり涼しいね。ここでアイス食べるの最高」

 駄菓子屋の前には車1台半分の道路があり、その向こうには川がある。川の両側には道に沿うように木々が並んでいる。

「川が近いのと、木の影がここまで来てるからかな。涼しいよね」

「そうだね。ここ好きだな」

 2人は真っ先にがりがりを食べ始めた。

 いつもは楽しく話しているが、何も話さないことも多い。今みたいにゆったりしている時も、静かにしている。2人の仲がいいのは、お互いに干渉しない時間があるのも理由の1つなのかもしれない。

 がりがりの棒を噛みかみしてぼーっとしていると、右から女の子2人がやって来た。

 制服や身長から中学生のようだ。

「あ、そーいえば。魔女の家ってどこにあんの?」

「んーーえーとね、確かねー……あれだなー」

 立ち止まって振り返り、山の真ん中から少し下を指さした。

 卯月は無意識にその先を見る。そこには一軒の家があった。

「あれ!?わっかりやすーー。家があれしかないなら、簡単に入り込めそうじゃん」

「そーかもーねー」

「盗んだ後、燃やしちゃえば証拠隠滅!ふふん、あったまいーー」

「いや、森の中だから山火事になっちゃう」

「あ……」

 2人は笑いながらは帰っていった。

「ね、聞いた?今の」

「聞いてたよ。魔女の家があるとかって」

「面白そうじゃない!?」

 卯月は目を輝かせながら言う。

「でも、魔女って……」

「さっきの人が指さしてたじゃん。魔女の家!いるかもよ?行ってみようよっ」

「……ちょっと気になって来たかも」

「でしょでしょ!魔女かー。魔法使うのかなぁ?薬作ったりとか。あ、使い魔とかいるのかな?はぁ~~気になる~~~」

「杖とか、箒とか?」

「そうだよ!魔女だもん。そういうのもあるよね。行ってみたいなー」

「今日はさすがに行かないよね?宿題まだ終わってないし」

「ぁ……」

 誰が見ても分かるくらいに落ち込む。

「ま、また今度行こうよ。魔女のこと調べるとか、森の中だから準備も大切でしょ?」

「そう……だね。そうだよね。そうしよう!」

 優美は卯月が元気になったことに安堵した。

「しっかり準備して、魔女の家に行こう!あ、チーム名考えよ」

「チーム?」

「チームっていいじゃん。探偵っぽいことするし、何かわくわくするしがんばれそう」

「そうかも?チーム、魔女……うーん」

「チーム魔法使いとか」

「魔法使いは男の人だよ」

「そっかー」

「魔女狩りとか?」

「それは怖いよ」

「そうだよね」

「名前なまえ……」

 学校のどの授業よりも真剣に考えている卯月を見て、優美はクスッと笑う。

「……アルテミス。いいかも!チームアルテミス!」

「アルテミスって、女神さまの?」

 何がどうしてアルテミスになったのか、優美は分からなかった。

「私の名前ね、月って漢字があって、ゆみちゃんはゆみ」

 ぽかーんとしている。ゆみちゃんはゆみが分からなかったのだろう。

 卯月は両手を前に出し、そこから右手を顔まで引っ張る動作をした。これなら分かるだろう。

「あっ弓ね。2回も名前言われたから分からなかったよ」

「それもそうだね」

「でも、何でそれでアルテミスになるの?」

「ゆみちゃんってそういうの見ないんだっけ。アルテミスといえば月と弓なんだよ。月の女神で、武器は弓」

「いいね月の女神」

「チームアルテミス結成だねっ」

「最初は何するの?」

「そうだなー……まずは調べよう。魔女のことを調べてから家に行こう」

「調べるなら、図書室とか図書館かな」

「魔法についても調べときたいよね。何ができて、何してくるか分からないからね」

「勉強だね」

「勉強って、そうだけど何かヤダな。捜査とかにしない?」

「ははは、そうだね」

「早速明日から、図書室で捜査開始しよっ」

「うん、がんばろうね」

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