第2話 人事異動、特4課始動

赤村に出された辞令は思ったよりも急で、年度の移り変わりでもないのにすぐ特4課は結成された。所長が会議室で特課の設立を知らせてから3日である。1〜3課は来月からの始動というが、4課だけこうも早く招集されたということは須藤が言っていた案件がよほど急ぎなのだろう。

設立されたばかりなのか段ボールばかり、そんな中で数人が輪になってコーヒーを嗜んでいる。


「おう、荷解きを差し置いてチルしとんか…」


「赤村さんもいかがです?」


須藤がマグカップを差し出す。断る所以もないので赤村はそれを受け取ると輪に入った。須藤のほかにも渋い色のジャケットを着た老人とまだ新米といった具合の女性刑事がいた。


「紹介しますね、東京大学で脳科学を専門に研究している田宮教授と超能力テストで念力型、電磁操作の発現が見られた牧村さんです。」

「あと私、須藤は精神型の能力です。感情を読み取れます。」


「磁気操作はなんとなーくわかるけど感情を読む?またようわからん能力やな。ほんで田宮のおっちゃんは専門家枠か。」


そうだ、と田宮は頷く。ついでに赤村がどのような能力なのかを尋ねてきた。


「俺は…身体型とか言われたんやけどさ、ぶっちゃけ元から運動神経ええ方やし実感ないんよな。」


「まぁそこは学会でも身体型の判別が難しいと言われておるからな。

比較的分かりやすいのは反応速度というのが現時点での見解じゃ。」


田宮がいうには人間の一般的な反応速度は0.1秒が限界だが、赤村がテストで記録した平均反応速度は0.04秒だったという。常人の倍以上早く反応できる、ということらしい。それ以外の詳しいことは現在研究中だとのこと。超能力者の確認から2年たってもまだ分からないことのほうが多いと田宮は述べる。


「とりま何だっけか、コドクだ。俺らの仕事はそいつを調べんだったよな?」


話を大枠に戻し、須藤にやるべきことを聞く。食堂で会った時にざっくりと聞かされたがまだ詳しいことは何もわかっていない。パッと見た感じ牧村はあまり会話に絡んでこない。自分と同じで何も知らないのにとりあえず超能力持ってたから採用の枠で来たのか、そもそもシャイなのか…


「そうです。行方不明事件とコドクの勢力拡大の相関性を見つける事が我々の仕事ですね。」


須藤が淡々と会話を進めていく。無駄な工程が全くないためテンポは良いが、難しい話題でそれをされるとたまったもんじゃねぇな、と赤村は思った。


田宮教授はインターネットで活動するCODOCを分析したり、彼らが主催する活動に参加するなど独自に調査していたらしい。結果、田宮教授彼らを大きく分けて二つに分類できるという。


一つはやたら統制のとれた集団、コドク。

大衆を扇動し活動を起こしたり不正企業などへの襲撃事件なんかにも関与していると見られている。顔を覆う布状の組織とゴーグルは個体ごとの違いが見受けづらく、非常に共通した印象を与える。服装は男女共通でカーキ色のロングコートを着用している。


もう一つは普通に白い布を被りコドクを支持する民衆、ケンゾク。

インターネットで見かけるのは大概こちら側だという。格好は統一されていない。ネットでの活動であったりコドクの活動に参加しに行ったりと、一部迷惑な側面もあるが上記のコドクより悪質性や影響力は低い。


「ケンゾクの方はさほど問題ではないとワシは考えた。今回の行方不明事件と関連あると考えられるのはやはり統制のとれているコドクの方ではないかと思うんじゃ。」


「統制が取れているってどういうことや、ただ息ピッタリちゅうわけちゃうんか?」


「何というかあらかじめお互いがどう動くか決まったような行動をするのだよ。それが彼らにとって不測の事態であっても。ほれ見てみぃ。」


いくらかの10秒程度の動画を見せられる。何かを設営している様子であったりデモに突撃してくる警官をいなしたりといったものだが確かに統制感という言葉が似合う。おそらくその原因は互いに言葉を交わしていないことと、集団の中で誰一人として日和ったり迷ったりしていない様子からだろう。おまけに田宮教授がいうにはコドクのそれぞれの個体には特定の役割がないそうだ。状況を見て集団と協力しながら最も能率の良い仕事をする…


「こう聞くとまるで虫みたいですね。」


「お、須藤もそう思う?なんかアリンコみたいで気味悪りぃよな。」


「ワシは、コドクは精神型の超能力者で現在活動しているコドク達と意識共有しているのではないか、と考えたんじゃがありそうな線かの?」


コドクがめちゃくちゃに訓練をつんでいて特殊な統制の取り方をしているただの集団であるという線もあるぞ、と田宮は付け加えた。ケンゾクの方は身元を割りやすいがコドクの方はまだ尻尾を出していない、分からないことだらけなのだ。


「わかんねぇ事だらけならどうしようもねぇよな…」


「そこでだ、今度また国会前でデモが行われるんじゃが…潜入してみないか?」


「潜入…?」


コドクは大抵のデモや活動に姿を現す。そこに参加、もしくは外部から観測することで秘密を探ろうというわけだ。またコドク、ケンゾクの明確な線分けも行えたら良いだろうとのことだった。


「確かに行方不明者がコドクに意識共有で動かされていると考えることができますね。」


「もしくはただ特殊な集団であるか、だ。」


いづれにせよ謎の多い連中である、疑う前にまず知らねばならない。

デモの開催日は明後日、それまでにできる限りの備えをしなければ…の前に話し込んで完全に無視していた荷解きをしなければならない。全員、自分のデスクにダンボールを運び出した…

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