CODOC

半熟たまご

一章 霞ヶ関、横浜編

第1話 対特殊事象捜査課、設立

人間は脳の10%しか利用できていない、というのはデマだと言われている。我々の脳は確かに100%稼動して生きているのだと。これが脳科学界の通説だった。

しかしある時、人間の脳にある異変が生じた。キャパシティが大幅に拡張され始めた…と言えばわかりやすいだろうか?


超能力。拡張された脳機能を意識的に使用し、従来の人間では考えられなかったパフォーマンスを実現させる力の総称である。二年前から存在が確認されており、主に下記三つのカテゴリに分類される。


〔身体型〕

自身の行動を完全に把握し高度な判断力や精密な動作を発揮する。


〔念力型〕

強力な脳波を物体に干渉させることで手を触れずの操作や透視などが可能。


〔精神型〕

他人の心や感情を感じ取ったりテレパシーが可能。


「…以上が超能力の概要だ。人間に超能力の発現が発見されて以来その数は急激に増加し、それに伴って超能力を使用した犯罪も増加している。我々はこれらに対応するため対特殊事象捜査課を設立したのだ。」


霞ヶ関、警視庁。会議室に集められた刑事らに講義されている内容は超能力犯罪に特化した課の設立に関してだった。二年前に超能力が初めて確認されて以来、その力を利用した犯罪の数は馬鹿にならないレベルで増加している。一方超能力者への差別や人権などの問題も発生しており事態は複雑さを増しているのだ。


そのため専門の課を設けることで混乱を回避、緩和しようという狙いだという。対特殊事象捜査課の1〜3課は通常の捜査課と協力を前提としたものだそうだが、4課は他と異なり独立している。基本の仕事は超能力犯罪者の制圧と確保という特殊部隊じみたもので、そのほかにはこれまで想定し得なかったような事件にも対応するそうだ。


「対特殊事象捜査課、以降特課と呼称するがここには主に超能力者とその専門家を配属する予定だ。前に行われたテストで超能力発現の可能性があるものには辞令が下ると思う。基本的に特課と言えど前と同じ専門の部署になるだろうし、通常捜査にも協力してもらうから仕事が大幅に変わることはないと思っていいぞ。」


以上、と署長の号令と同時に昼を告げる鐘がなり刑事らはそれぞれの部署へ戻っていった。コート姿がほとんどであるある中、一人パーカー姿の男を署長は呼び止める。


「赤村、お前は残れ。」


呼ばれたパーカー姿に色眼鏡を額にあげた男がだるそうな様子で戻ってくる。赤村、マル暴所属で風貌と素行の数々から狂犬だの暴力装置だの言われている男。手柄は上げるが評判はよくない。


「なんや、今から飯行くんやけど。」


「単刀直入にいう。君は特4課に移ってもらう。」


「…は?アレ超能力者しか採用しないんとちゃうんか?」


「テストの結果君は身体型の超能力者である可能性があるそうだ。結果の数字を見たがどれにも驚かされたよ。特にハードル走や反復横跳び、反射神経テスト、神経衰弱の結果が異常に高かった。暴力装置というかまるで起動兵器だ。」


「おう…で、もう行ってええか?」


「あぁそうだな、後日書類送るからしっかり見ておいてくれよ。」


そう言われると赤村は軽い会釈でその場を後にした。昼休みの時間は彼にとって貴重である。カフェレストランほっと、剣道場近くの食堂で馴染み深い場所でもある。彼にとって霞ヶ関という場所は退屈だがその景色だけは良いものだと感じられている。自身がとんでもない人物であるという自覚がありつつ、こうして日本の中枢で働けるということは誇りに思っているのだ。


今日は贅沢してテラカレー、とんでもない量の大盛りカレーだ。部署異動、多分栄転なのだからこれくらいいいだろうとドデカいのを頼みいつも通り席に着く。


彼の周りは食堂が混雑していようが誰も隣に座らない。その悪評と滲み出る圧が同じ職場で働く屈強な男ですら寄せ付けないのだ。が、今日は違った。スラリとしていてメガネをかけたよくスーツの似合う男。見たことのない人物だったが、その姿勢の良さからただのインテリではなくそれなりに動けるであろう事を赤村は読み取った。


「お前よぅ座るな俺の隣、珍しいで。見いひん顔やけどどこのもんや?」


「元SATの須藤です。今度特4課に移動になるとの事だったので同じ仕事場になる方の顔くらい見ておこうかと。」


「お前なんで俺の人事知っとんねん…しっかし国の特殊部隊からも来んのか、たいそうなもんだな特課ってのも。」


なるほどSATの人間なら肝くらい据わっているなと赤村は思った。しかしこんなところからも引き抜くほどこの特課とやらはすごいのかと思っていると須藤がスマホを見せながらこういう。見せられた動画には白い布を被りゴーグルをつけた人がデモを扇動する様子が映されていた。


「特4課には早速仕事が与えられるそうです。それがこれ、見たことあるでしょう?最近話題の。」


「あぁみんなこの格好してんな。ネットでの政治活動とか暴動起こしたり、迷惑行為したり…なんだっけコードックだっけか?」


「CODOC、発音はコドクみたいですね。元々ただの一過性のネットミームと思われていたそうですが違った。暴力的な方向の活動が目立つにも関わらず、妙に求心力があるのか支持者がやたら多い。コドクの格好をして活動をする者の多くは若者みたいです。」


「ただのネットミームじゃないのか?」


「コドクが活動を開始してから20代から30代後半の行方不明数は急激に上昇しています。たった一年間で96人、現在も増え続けているのだとか。しかしあらゆる監視ネットワークの使用や通常捜査でも犯人や行方不明者の発見はおろか、手掛かりの入手すら至っていません。」


「話が難しいぞ。とりあえずコドクの登場と一緒に若者がめっちゃ行方不明になってるから疑わしいんやろ?で、全然尻尾を見せへんから超能力案件ちゃうかと。」


「そういうことですね。ま、詳しい話はまた後日。なんとなくどんな人か分かったのでよかったです。」


ずっと喋っていたにも関わらず気づけば須藤は完食しており、さっさと食器を返してさっていった。なかなかやりがいはありそうだがずいぶん大変な案件に駆り出されそうな気がした赤村は、面倒くさく思いつつ少し楽しみであった。須藤という元SAT隊員もなんとなく有能そうだ、なんとかなるだろうと。


待っている脅威がどれほどの物であるか、この時は誰も知らなかった…

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