第34話 「カリカリカレーパン」

「それからもう一つ、これは応用的なアドバイスなんですけど……」

「はい!」


 先輩はノートを取りつつ、レンジ内を確認しながら俺の話を聞く。


「豚カツやコロッケなどの揚げ物も、同じように温めれば時間が経っても出来立てみたいにサクサクになるのでおすすめです」

「あっ!じゃあ、今カレーパンをオーブンで温めているのも?」

「はい。安売りの惣菜パンでも、普通に食べるよりさらに美味しくなるんですよ」


 俺も家で豚カツやコロッケを作り置きした時に、工夫できることはないかと思って調べたんだけどな。


「へぇ〜、そんな楽しみ方があるなんて!早く食べたいです」

「ははっ、すぐに出来ますよ」


 先輩は子供のようにワクワクした表情。

 タイマーを見れば残りは10秒ほど。話している間に完成だ。


「よし、皿に分けますね」


 温め終了の音が鳴り、レンジを開ける。


「わぁっ!」


 湯気と香ばしい匂いに包まれ、カリカリに焼けたカレーパンが姿を現す。


「すごく良い匂い!パンの生地もこんがりですね!」

「三つ同時は初めてでしたが、温め時間はバッチリでした」


 大皿のカレーパンを小皿に分け、菜箸で軽く触れるとサクッという音が響く。

 食欲をそそる音だ。


「わ〜、こんな美味しそうな惣菜パン初めて見ました」

「俺も初めてやった時は驚きました」

「まるで生まれ変わったかのような佇まいですね!」


 先輩は興味津々。見た目に感動している様子だ。


「さっそく食べましょう。この後は卵焼きも作るんですし」

「そうですね!」


 ひなたにも声をかけ、三人で食卓を囲む。


「カリカリのカレーパンだ!」

「カリカリですね!」

「カリカリですとも」


 みんなの反応に心が和む。

 俺は調理していないのに、二人の笑顔に少し照れる。


「じゃあ、いただきます」

「あっ、綾瀬くん!ちょっと待ってください」


 先輩はカレーパンに手を伸ばさず、スマホを取り出す。


「食べる前に写真撮っていいですか?」

「いいですよ。せっかくなら半分に切って中も見えるようにしましょう」

「いいんですか!?」

「なんで駄目なんですか?」


 俺はキッチンからナイフを取り、カレーパンを半分に切る。


「にいちゃん、おなかすいた〜」

「ん、分かった。ひなたは先食べてていいぞ」

「やったー!」


 ひなたが待ちきれず、両手でカレーパンを持って豪快にかぶりつく。


「おいひ〜!」


 リスのように頬を膨らませる姿は無邪気で心が温まる。


「微笑ましいですね」

「はい。食事の時の楽しみでもあります」


 先輩はスマホで撮影。


「もしかしてSNSですか?」

「いえ、自分用です。この写真を見ればお腹空いた時でも安心です」

「それ、余計にお腹空きません?」

「た、確かに……」


 俺は残り二つのカレーパンを半分に切り、綺麗に並べる。


「綾瀬くん、盛り付けのセンスありますね」

「えっ?ただ撮りやすいように並べただけですが」

「無意識なところがすごいです」


 カレーパンにぎっしり入ったトロトロのカレーが溢れ、見た目だけでも食欲をそそる。


「お待たせしました!私たちも食べましょう」

「はい」


 写真を撮り終え、先輩の合図でようやく食べ始める。

 最初はリアクションしていた先輩も、美味しさと空腹で黙々と食べていた。


 ひなたは先に食べ終わりテレビに戻ったが、俺たちはカリカリのカレーパンを存分に堪能した。

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