第4話「事件発生!?」



 ◇◇◇◇


「えへへ、にぃちゃんありがと!」

「ひなたは良い子だからな。ご褒美だ」


 保育園を後にして、家へと帰る前に近所のスーパーへ寄った。

 夕飯の買い出しと、ひなたが普段食べるお菓子を買うのが目的だ。


「本当に重くないか?」

「だいじょうぶ!」


 そんな中、ひなたは自分の食べるお菓子を自分で持つと言ってくれたのだ。

 そのため、ひなたの手にはお菓子がいくつか入った小さなビニール袋が掴まれている。


 弟の頑張りに心を打たれた俺は、ご褒美にアイスを買ってあげたわけだが。

 夕飯前だというのに、我ながら甘やかしすぎだろうか。


「美味しいか?」

「うん!にぃちゃんにもあげる!」

「俺はいいよ。一人で食べなよ」

「はい、あーん!」


 ひなたは俺の方にソーダ味のアイスを掲げてくる。

 本当に出来た優しい弟だ。自分へのご褒美なのに、それを他の人に分けるなんて。なによりこの笑顔が可愛いらしい。


 俺はひなたから差し出されたアイスを小さく齧る。


「おいしい?」

「……うん。美味しいよ」


 口の中にさっぱりとしたソーダの味が広がる。

 嬉しそうに見守るひなたを前に断るわけにもいかなかった。


「でも、買ったお菓子は明日から食べるんだぞ?これ以上食べたら虫歯になっちゃうからな」

「うん。きょうはこれでおしまいにする」

「ひなたは我慢できてえらいな」


 俺は持て余している左手でひなたの頭を優しく撫でる。


「えへへ……」


 本来なら手を繋いであげたいところだが、ひなたの両手は荷物とアイスで塞がっている為叶わない。

 ひなたはしっかりしているし、俺も注意しながら歩いているからこのままでも問題はないだろう。


「よし。じゃあ今日は、ひなたが食べたい物なら何でも作ってやるぞ」

「ほんと!」

「ああ!何がいい?」


 って、ご褒美をあげたにも関わらずつい無意識のうちにさらに甘やかすような事を言ってしまった。


「んーーんーとね。カレーらいす!」

「カレーかぁ……。ひなたは本当にカレーが好きだな」

「うん!すき!」


 ひなたが考えた末に出てきたメニューは「カレーライス」。


 実は、数日前にもひなたのリクエストでカレーを作った。

 この年ぐらいの子は、好きな物ならあまり飽きるという事もないのだろうか。

 なんでもとは言ってみたものの、まったく同じ物をこの短期間でというのは少し思う所もある。


「他には無いのか?」

「カレー……だめなの?」

「うぐっ……」

「にぃちゃん、なんでもっていった」


 そんな純粋な目で見られると、心が痛む。

 直接駄目とは言っていないが、幼いながらも俺が別の物に誘導しようとしている事に気付いてしまったらしい。


「あっ」


 そういえば、今日は特売でを買った事を思い出す。


「なぁ、ひなた」

「う?」

「いつもとちょっと違うカレーでもいいか?それなら作ってやれるぞ」


 俺の頭の中に、普段とは少し違うアレンジレシピが閃いていた。


「ぼく、にぃちゃんのつくってくれるごはん、ぜんぶすき!だからなんでもたべる!」

「えっ、何それやばい泣きそう」

「にぃちゃん?」

「いや、なんでも無い」


 嘘のない弟の明るい笑顔と言葉に思わず感激してしまい涙腺が緩む。


 なに?俺の弟って聖人の生まれ変わりなんじゃないの?


 あまりに嬉しい事を言ってくれるので、今晩の料理はより一層美味しい物にしてあげようと、そう思った。


 マンションを登るエレベーターが開く。

 自分たちの部屋がある10階に止まった。


「ひなた、先に出て---」


 ドアの開閉ボタンを押しながら、先にひなたを降ろさせた先には衝撃な光景が広がっていた。


「……にぃちゃん、だれかたおれてる」


 そう。ちょうど俺たちの住む部屋と隣の家の中間ぐらいの位置に一人の女性が倒れていた。

 それを見て、ひなたは俺の後ろに隠れる。


「だっ、大丈夫ですか!?」


 突然の事で内心焦りながらも、俺は持っていた買い物袋を通路に落として、すぐさま駆け寄った。

 

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