EP 2
探索、そして早すぎる失恋
「はぁ……」
月曜日の昼休み。松田瑠璃は、机に突っ伏して、何度目か分からないため息をついた。友達が「瑠璃ー?購買行こー!」と誘ってくれても、心ここにあらずといった様子だ。
(あ~~~、瑠璃のバカ!バカバカバカーっ!あんなにカッコいい子の名前を、どうして聞かなかったの~!)
瑠璃は、自分の頭をポカポカと軽く叩いた。
昨日の朝の出来事が、鮮明に脳裏に焼き付いて離れない。綺麗な顔立ち、優しい声、そして、不思議なスプレーで一瞬で傷を治してくれた、あの神秘的な少年。まるで、夢に出てきた王子様そのものだった。
それなのに、自分は舞い上がってしまって、お礼を言うのが精一杯。
(そもそも、自己紹介だってしてないじゃない!これじゃあ、向こうは私のことなんて、ただのドジな遅刻魔としか思ってないよ……。うぅ、また会えるかなぁ……会いたいなぁ……)
淡い期待と、後悔。その二つが、瑠璃の心を支配していた。
そして放課後。瑠璃は、いてもたってもいられなくなり、昨日彼と出会った商店街を中心に、街の探索を開始した。部活動もサボって、ただひたすらに、あの王子様の面影を追いかける。
「どこにいるの、王子様……」
半ば諦めかけて、駅前の広場に差し掛かった、その時だった。
人混みの中に、見慣れた……いや、一度見ただけで忘れられなくなった、銀色がかった髪を見つけた。
「いたっ!」
瑠璃の心臓が、大きく高鳴る。間違いない、昨日の彼だ。
今日はどんな服を着ているんだろう。今度はちゃんと、名前を聞いて、自己紹介して、お礼を言わなくちゃ。
瑠璃は、逸る気持ちを抑えながら、声をかけようと一歩踏み出した。
しかし、その足はすぐに、ぴたりと固まった。
優一は、一人ではなかったのだ。
彼の隣には、太陽みたいに明るい笑顔が魅力的な、とても可愛い女の子が寄り添って歩いていた。二人は、一つのクレープを分け合いながら、楽しそうに談笑している。その雰囲気は、どう見ても、付き合いたての恋人同士そのものだった。
――ガーン。
瑠璃の頭の中で、そんな効果音が鳴り響いた。
さっきまでの高揚感は、一瞬にして氷点下まで下がる。嬉しさと期待でいっぱいだった心は、急速にしぼんでいった。
(だ、誰なの……あの子……。すっごく可愛くて、優一くん……ううん、王子様の隣に、すごくお似合い……)
胸が、ズキリと痛む。
声をかけるなんて、もう無理だった。瑠リは、その場から逃げ出すように踵を返し、涙がこぼれ落ちそうになるのを必死で堪えながら、家までの道を走った。
自室のドアを開けるなり、彼女はベッドへと倒れ込む。枕に顔をうずめると、我慢していた涙が、堰を切ったように溢れ出してきた。
「うわぁぁぁん……!失恋なの、これ~!?名前を聞く前から、失恋しちゃったの~!?」
王子様との再会。そして、秒速の失恋。
瑠璃の初恋は、本格的に始まる前に、あまりにも切なく、そして無残な幕切れを迎えたのだった。
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