星条旗と三つのアメリカ編
第13話:降下する星条旗(空母甲板上)
『全海軍部隊員へ、対空戦闘用意。対空戦闘用意』
空母の中では、けたたましい警報が鳴り響いていた。
艦内に居る全員がざわめき始めた。
その中で海軍部の制服を着た者だけが、迅速に移動し始めた。
「な、なに!? いたっ!」
「まだ寝てないとだめよ」
アマノは、この警報の中でも声色は落ち着いていた。
彼女は私の肩を掴んで、ベッドに寝かせる。
部屋の外で、複数の足音が行ったり来たりしているのがわかった。
しかし、リツはベッドから起き上がって、靴を履いた。
彼女も私同様に、けが人のはずだ。
だが、アマノは止めなかった。
「これ、貰ってくから」
リツはいろんな薬の並んだ棚を物色する。中から一つ選んで、それを2粒ほど飲み込む。
飲み終えると、彼女は数回肩を回して部屋を出ていった。
私はリツ少佐の強靭さを、息をのんで眺めるしかできなかった。
「大丈夫。きっと何も悪いことは起きないから」
アマノは静かに、しかしどこかを見つめながら言った。
♦
「なんの騒ぎだ?」
「こちらに航空機が向かってきています。数は2機」
CIC、指揮所ではモニターをのぞき込む人間が、複数人居る。
外を写す映像が、映し出される。
それは2つの影が、こちらに向けまっすぐ飛んできている映像だった。
「これは?」
「現在、確認中」
「対空戦闘の用意は?」
海軍部の隊長が尋ねると、オペレーターは渋い顔をした。
そして、
「1番と2番ファランクスは、すでに兵員が到着し、準備完了と報告を受けていますが……」
彼は喋っている言葉を、濁した。
誰もが芳しくない報告を察した。
「迎撃機が出せません。格納庫に人間が多すぎて……」
その通り、格納庫には陸軍部の人間、加えて避難してきた民兵も居た。
格納庫から戦闘機を出そうにも、人が邪魔すぎて出せない。とのことらしい。
「さっさと、どかせろ!」
海軍部の隊長は、呆れたように怒鳴った。
その時、別の隊員から報告が入る。
「IFF確認。味方です。しかし、20年ほど前のモノです……」
「はぁ……誰なんだ? その20年も前の、”仲間”ってのは」
その隊員も、自分の目が信じられないといった様子で、
「”米海軍所属”のF-14です」
アメリカの戦闘機が、なぜ日本に。
すでに日本から、米軍は撤退している。
自体が単純でないのは、理解できた。
「ん?」
カメラに目を凝らすと、左右の翼を上下に振っているのが映っている。
「”敵ではありませんよ”ってか?」
「この進路だと、”あれ”はこの船に着艦しようとしているのでは……」
彼は頭をかきむしった。
めんどくさいことを、考えないようにするための癖だ。
そして、息を深く吸って、両手で頬を叩いた。
「しゃーない! ワイヤーの用意だ! だけど、銃口だけは外すな!」
「「「了解」」」
各隊員が、ヘッドセットに向かって、各々が別々の場所に指示を出す。
ある人は、甲板へ向かわせ。
ある人は銃を持って待機。
総じて、艦内は臨戦態勢に入った。
……
……
「おい」
「んー?」
隊長は、艦橋の梯子を上って屋根の上に上がると、そこにリツが居た。
「お前、今入院中だろ」
「昨日食ったハンバーグで回復しましたー」
おちゃらけた態度で、彼女は返す。
腕にはまだ包帯が撒いてあり、傷も癒えてるとは言えない。
そんな彼女が、屋根の上に座っていた。
傍らには、どこから持ってきたのか、スナイパーライフルがあった。
「対空戦闘、っつっても今じゃ対空砲も手回しで撃ってんだろ? それより、これで撃ったほうが効率がいい」
ミサイルや戦闘機を、ライフルで撃ち落とせるなんて、まさか思っていないだろう。
でも彼女の顔は真剣だった。
何もやらないよりは、マシだ。
彼女の横顔はそう言っているように見えた。
「ほら、来るぞ」
彼女は、間近まで近づいた戦闘機に狙いを付けた。
正直な話、私も同じことをしようとしていた。
敵が着艦して、不審な動きを見せようものなら、撃ちぬく。
この艦橋は、最適な場所だ。
私はリツと同じ方向に、ライフルを構えた。
ゴォォォォォォォ──────!!!
エンジンの逆噴射が聞こえて、程なくして戦闘機は着艦した。
船に若干の揺れが伝わり、甲板上ではせわしなく人間が動く。
私はコックピット付近を狙った。
「F-14かぁ……昔の映画で、有名なのあったよなぁ」
「……」
少しうれしそうにリツは話す。
だがリツの声は、次の戦闘機のエンジン音にかき消され、空気中に消えていった。
隊長の耳元までは、届かなかった。
「リツ、パイロットだ。どう見える?」
リツは話を切り上げ、再度スコープをのぞき込んだ。
倍率のおかげで、顔までよく見える。
そして、顔を確認する。
「1人……だけか? なんか、やつれてるように見える」
「もう一機の方は?」
銃を数cmずらして、もう片方のパイロットを見る。
こちらもやはり一人だけ。
F-14は本来、2人乗りのはずだ。
「アメリカも人手不足みたいだな。世知辛い」
「不審な動きを見せるまでは。わかってるな?」
「了解」
単調な会話だけを最後にして、隊長とリツは屋根の上から監視を続けた。
降りてきた戦闘機には、大きな星が描かれいた。
それは米国のモノだということを、表している。
──問題は、「どの米国」か、だ。
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