星条旗と三つのアメリカ編

第13話:降下する星条旗(空母甲板上)

『全海軍部隊員へ、対空戦闘用意。対空戦闘用意』


 空母の中では、けたたましい警報が鳴り響いていた。

艦内に居る全員がざわめき始めた。

その中で海軍部の制服を着た者だけが、迅速に移動し始めた。


「な、なに!? いたっ!」

「まだ寝てないとだめよ」


 アマノは、この警報の中でも声色は落ち着いていた。

彼女は私の肩を掴んで、ベッドに寝かせる。

部屋の外で、複数の足音が行ったり来たりしているのがわかった。

 しかし、リツはベッドから起き上がって、靴を履いた。

彼女も私同様に、けが人のはずだ。

だが、アマノは止めなかった。


「これ、貰ってくから」


 リツはいろんな薬の並んだ棚を物色する。中から一つ選んで、それを2粒ほど飲み込む。

飲み終えると、彼女は数回肩を回して部屋を出ていった。

 私はリツ少佐の強靭さを、息をのんで眺めるしかできなかった。

 

「大丈夫。きっと何も悪いことは起きないから」


 アマノは静かに、しかしどこかを見つめながら言った。



「なんの騒ぎだ?」

「こちらに航空機が向かってきています。数は2機」


 CIC、指揮所ではモニターをのぞき込む人間が、複数人居る。

外を写す映像が、映し出される。

それは2つの影が、こちらに向けまっすぐ飛んできている映像だった。


「これは?」

「現在、確認中」

「対空戦闘の用意は?」


 海軍部の隊長が尋ねると、オペレーターは渋い顔をした。

そして、


「1番と2番ファランクスは、すでに兵員が到着し、準備完了と報告を受けていますが……」


 彼は喋っている言葉を、濁した。

誰もが芳しくない報告を察した。


「迎撃機が出せません。格納庫に人間が多すぎて……」


 その通り、格納庫には陸軍部の人間、加えて避難してきた民兵も居た。

格納庫から戦闘機を出そうにも、人が邪魔すぎて出せない。とのことらしい。


「さっさと、どかせろ!」


 海軍部の隊長は、呆れたように怒鳴った。

 その時、別の隊員から報告が入る。

 

「IFF確認。味方です。しかし、20年ほど前のモノです……」

「はぁ……誰なんだ? その20年も前の、”仲間”ってのは」


 その隊員も、自分の目が信じられないといった様子で、

 

「”米海軍所属”のF-14です」


 アメリカの戦闘機が、なぜ日本に。

すでに日本から、米軍は撤退している。

自体が単純でないのは、理解できた。


「ん?」


 カメラに目を凝らすと、左右の翼を上下に振っているのが映っている。


「”敵ではありませんよ”ってか?」

「この進路だと、”あれ”はこの船に着艦しようとしているのでは……」


 彼は頭をかきむしった。

めんどくさいことを、考えないようにするための癖だ。

そして、息を深く吸って、両手で頬を叩いた。


「しゃーない! ワイヤーの用意だ! だけど、銃口だけは外すな!」

「「「了解」」」


 各隊員が、ヘッドセットに向かって、各々が別々の場所に指示を出す。

ある人は、甲板へ向かわせ。

ある人は銃を持って待機。

 総じて、艦内は臨戦態勢に入った。

 

……

……


「おい」

「んー?」


 隊長は、艦橋の梯子を上って屋根の上に上がると、そこにリツが居た。


「お前、今入院中だろ」

「昨日食ったハンバーグで回復しましたー」


 おちゃらけた態度で、彼女は返す。

腕にはまだ包帯が撒いてあり、傷も癒えてるとは言えない。

そんな彼女が、屋根の上に座っていた。

傍らには、どこから持ってきたのか、スナイパーライフルがあった。


「対空戦闘、っつっても今じゃ対空砲も手回しで撃ってんだろ? それより、これで撃ったほうが効率がいい」


 ミサイルや戦闘機を、ライフルで撃ち落とせるなんて、まさか思っていないだろう。

でも彼女の顔は真剣だった。

何もやらないよりは、マシだ。

彼女の横顔はそう言っているように見えた。


「ほら、来るぞ」


 彼女は、間近まで近づいた戦闘機に狙いを付けた。

 正直な話、私も同じことをしようとしていた。

敵が着艦して、不審な動きを見せようものなら、撃ちぬく。

この艦橋は、最適な場所だ。

 私はリツと同じ方向に、ライフルを構えた。


 ゴォォォォォォォ──────!!!


 エンジンの逆噴射が聞こえて、程なくして戦闘機は着艦した。

船に若干の揺れが伝わり、甲板上ではせわしなく人間が動く。

私はコックピット付近を狙った。


「F-14かぁ……昔の映画で、有名なのあったよなぁ」

「……」


 少しうれしそうにリツは話す。

だがリツの声は、次の戦闘機のエンジン音にかき消され、空気中に消えていった。

隊長の耳元までは、届かなかった。


「リツ、パイロットだ。どう見える?」


 リツは話を切り上げ、再度スコープをのぞき込んだ。

倍率のおかげで、顔までよく見える。

そして、顔を確認する。


「1人……だけか? なんか、やつれてるように見える」

「もう一機の方は?」


 銃を数cmずらして、もう片方のパイロットを見る。

こちらもやはり一人だけ。

F-14は本来、2人乗りのはずだ。


「アメリカも人手不足みたいだな。世知辛い」

「不審な動きを見せるまでは。わかってるな?」

「了解」


 単調な会話だけを最後にして、隊長とリツは屋根の上から監視を続けた。

降りてきた戦闘機には、大きな星が描かれいた。

それは米国のモノだということを、表している。


──問題は、「どの米国」か、だ。

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