第7話 グリップテープとピヨ
ハードボイルド作家、藤堂俊介は胸を守るベスト型の防具と簡易ヘルメットという初心者セットを購入し、別口で環から日本刀を借りた。
「学生の頃、剣道をしていてね。真剣に憧れがあったんだ」
と環から、借り受け証の控えを受け取った。
支払いは、どちらも最近流行りのキャッシュレス決済【ポンポコpay】である。
「もし、危なっかしい使い方をしてましたら、速攻で奪い取りますからね」
と数年前まで刀など触った事がなかった環が口を挟む。
「じゃあ、藤堂センセ、環さん、お気をつけて」
とピヨがガレージの奥の扉へと送り出そうとすると、
「何を言っているんだ? ピヨ、君も行くんだよ」
「えっ、俺って必要ですか?」と訊くピヨに
「センセがダンジョンを体験して、私がセンセの警護をする。その様子をピヨが記録して、映像資料をセンセと編集さんで物語にしていくんだよ」
などと宮本環が不気味な笑みを向けてきた。
「ちょっと待った、俺の格好見えます? ネクタイとシャツとスラックスに革靴ですよ?」
「それにベストも着てる」
「そう、紺のニットのシンプルなベストです。センセが来ているような、ベストじゃないです」
「シンプル イズ ベスト!」
藤堂がわけのわからない駄洒落を言って、3秒ほど時が止まる。
「とにかく、着替えて来ます。10分ほど時間をください」
とピヨは一旦2階の自室に戻り、さっと着替えた。
防具のベストはセンセと同じ浅層向けの軽いタイプで、ヘルメットもカメラホルダーが付いている以外は藤堂と同じ物である。
履きなれたブーツを履いてガレージに戻ると、正面に日本刀を構える藤堂がいてピヨの口から「ヒェッ」って声が出た。
「ごめんごめん、暇だったんで構えを見てもらってた」
と藤堂がピヨに頭を下げた。
「ちょっと貸して下さい」と環が日本刀を受け取ると、自身のマジックバッグから何やら水色のテープを取り出す。
ぐるぐるとテープを柄つかに巻く姿を見ると、ここってテニス部かバドミントン部の部室だっけ? との疑問がピヨの頭に浮かぶ。
「環さん、コレって高価な刀なんじゃないの?」
という藤堂の心配声に
「テープ巻いたぐらいで価値が下がる刀じゃないからね。指が長いんだから、柄は太い方がいいでしょ?」
藤堂とピヨは目を合わせて、共に首を傾げた。
彼女にはロマンはないのだろうか?
「はいどうぞ」と渡された日本刀を、正眼に構えて藤堂がぴゅんと振る。
「……確かに振りやすくはある」
と水色の蛍光色のグリップテープをじっと見ている。
「なぜ今更、組紐を巻いたままの昔ながらの柄なんて使わなきゃいけないんです? その辺の中学の剣道部だって竹刀の柄の部分はゴム製のグリップですよ」
と宮本環がダンジョンの扉へと歩き出す。
「なぁピヨ、もしダンジョン庁で日本刀をプロデュースする時があったらさ、日本刀の柄の部分はやっぱり和風な方が良いと思うんだよな。だから、組紐の部分を滑りにくいゴム製にするとかどうだ?」
藤堂がピヨに向かって親指を立てたが……もちろんピヨには製品開発に関わる予定は無い。
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