''親友''様のため

小学生の頃からクソ映画が好きだった。

CGは荒いし、ストーリーは意味不明。役者の演技もどうした?となるほど微妙なものばかりだ。

だけどそれが良い。

低予算のチープさには、名作とは違った良さがある。だから来る日も来る日も飽きずに見てきた。

けれどクラスのやつらがそれを馬鹿にしてきた。


『え、そんなの見てんの?』

『変なの〜』


自分と違うところがあると、すぐに攻撃するような奴らだった。

うるせぇ、俺の勝手だろ。

そう言いかけた時――


『え〜別にいいじゃん。何が好きかなんて悠斗の勝手だろ?』


幼なじみの理央がそう言ってくれた。

俺を馬鹿にしたやつらは、クラスの人気者の理央がそう言ったもんだからバツが悪そうな顔をしていた。


――その一言に救われた気がした。


理央にとっては何気ない言葉だったかもしれない。

''ブレイブマン''の真似事の延長線だったかもしれない。

 

でも、俺には救いだった。

初めて、自分のことを肯定されたような気がした。

親なんて仕事ばかりで俺が何を好きなのかも知らない。

家にいても、話す相手なんていなかった。


だけどこんな俺に理央はいつも話しかけてくれた。

それこそ、保育園の時から、ずっと。

なんの見返りもなく、当たり前のように。


クラスなんて、ずっと一緒で。

興味も無いブレイブマンを見せに来ては熱く語り、俺とクソ映画を一緒に見てはツッコミまくったり、気づけば家に上がり込んで、泊まりに来たりして⋯


思い返せば俺の記憶にはいつも理央がいた。

いつも隣にいて、それが当たり前のような存在だった。

⋯嗚呼、これが『親友』ってやつなのかなって思った。

⋯⋯理央には絶対言わねぇけど


だから最近のお前が何を考えているのかわかんねぇよ。

きっと――あのヒーローを真面目に見てくれるやつが現れちまったからだろうか。

黄泉坂煉――

陰気で暗くて何考えているかわかんねぇ、話しかけてもどもるだけの存在感なんて空気みたいなやつ。

それがここ最近、休み時間になるとずっと話している。

今も――


「二十七話から変身バンクが変わったじゃん!前のも良かったけど変わったやつもまた違った良さがあって!」


楽しそうな声で理央が黄泉坂にそう言う。

真剣に、嬉しそうに、顔を赤くしながら身振り手振りで語っていた。


――そんな顔、俺に向けたことあったっけ?


「うん、⋯カメラワークとか良いよね。僕は前の方が好き、かも。ブレイブマンの顔のアップが多いし」


「あぁ〜!いいよな〜ブレイブマンってイケメンだから画面映えるし!キリッとした顔がこっちを見つめてて良いよな〜」


「うん、カッコイイよね⋯」


黄泉坂の顔を見る。顔をほんのり赤くして理央を真っ直ぐ見つめている。


――それはブレイブマンのことか?理央のことか?

もちろん答えなど帰ってこない。

けれど確信はあった。

 

理央のことを狙っている。

 

あいつは、理央をストーカーしていた。

あの日あの時、本当に驚いた。

殺気を感じ、もしやと思い理央と別れた後、物陰に隠れていたら理央の家をじっと確認する黄泉坂がいたのだから――

正気じゃない。あんなやつ近づけさせてはいけない。

だが――理央があんなにも楽しそうにしている。

無理矢理離せば、きっと理央が悲しむ――


(でも、あんなの見たら、離すしか選択肢ねぇだろ!!)

 

先程の授業で悠斗は見てしまった。

黄泉坂が理央のことを盗撮しているのを――

偶然だった。

授業が退屈で、何となく斜め後ろを振り返った時だった。

黄泉坂の動きが妙に気になった。

教科書の陰に、スマホらしき黒い塊。

そして、そのスマホが向いている先には――


(⋯⋯理央?)


距離があるからはっきりと見なかった。

けれど、カメラの角度的にあれは――

どう考えても理央の方を向いていた。


(あいつ、反省も何もしてねぇ⋯!)


悠斗は奥歯を噛み締めた。

あの日から何も変わってない――いや、むしろ悪化している!!


(あれだけ言ってまだやるとか⋯逆に褒めたくなるぐらいだよ、馬鹿野郎)


今すぐにでも声を荒らげたかった。

「何やってるんだ!」⋯と。

だが授業中、そんなことをしたら騒ぎになる。

たとえ根暗でも優等生の黄泉坂にそんな態度をとったら怪しまれる。逆に悠斗の方が訝しげな目で見られるだろう。


(けど、このまま黙ってられるかよっ⋯!)


考えろ、あいつを追い詰められる行動を。

直接言う?――いや、証拠なんてない状態で詰めても理央に止められる。

『黄泉坂はそんなことしない』って――

優しすぎる、お人好しの域を脱してる。

じゃあ誰かに相談する?

親に?教師に?クラスメイトのヤツらに?

――無理だ。

こんな平和な日常の中で、クラスの人間がストーカーするなど誰が信じる?たとえ信じたとしても面白おかしく噂を立てられるだけだ。


『佐々川ってストーカーされたんだってさ』

『マジで?やっぱ人気者って大変なんだなw』


他人事みたいに笑って、噂を広げるだけ広げて、自分たちは知らない顔して本気で受け止めない。


(そんなこと、させねぇ⋯)


だから、決心した。それが黄泉坂と同類だと思われる行動だとしても――構わなかった。

ポケットの中のスマホを触る。緊張なのか、恐怖なのか手汗がひどい。罪悪感なんて、とっくに蹴り飛ばしてた。

 

(――俺が''証拠''を見つけてやる。お前がそのつもりなら、俺もお前を尾行してやる。撮影してやる。知り尽くしてやる、徹底的な。)


覚悟は決まった。


(絶対暴いてやる、てめぇのその顔を)


――''親友''様のためだ。


悪く思うなよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る