正神論

虚無感

プロローグ

苔は枯れ果てて

世の中に平等など存在しない。

僕、リファイスが今食べている砂利の混じった麦粥むぎがゆを見ればそれがわかる。

ふと足元を見ればどこからか湧いてきたありが列をなし、古い木製の床の危険を教えてくれる。

空が薄らうっすらと明るさを帯びできたことに焦っていつ洗ったのかも覚えていない手で麦粥を掻っ込む。

「サキュ、行ってきます。」

帰ってこない返事を背に駆け足で今日の仕事場へと向かう。


6歳の時、親父が娼婦と蒸発した。

経営している商会が赤字続きだったのもあり、僕たちに残されたのは莫大な借金と、そして差し押さえられた家だけだった。

僕たちは家と、金と、そして世間体を失った。

母は娼婦に身をやつした。

あくせく働いて、そして僕が8歳の時誰との子供かも分からない女の子いもうとを残して死んでしまった。


自殺だった。


僕がそんな環境で正気でいられたのはそのいもうと、サキュのおかげだろう。 母の遺体の付近で泣いていた彼女は、おそらく義妹だ。

そして今年で8歳となり、生来の病弱さもあって家にずっと寝たきりなのもあり、日焼けの知らない肌と小枝のように細い腕や指が、恐ろしく神秘的な雰囲気を醸し出している。が、今は病気で寝たきりである。

サキュは魔法の才能が中途半端にあったらしく、魔力病という命の危険がある病になってしまった。薬にはお金がいる。両親が他界して以降、市民権を失った僕には低賃金、重労働の仕事しかない。 そんな中で薬を買えるほどのお金を得るには。


僕は今までの事を思い返しながらこの街の外壁へと向かう。仕事の始まるのは日がもう少し出てから。 そして偉い人に挨拶してから仕事を始める。


そう、残業である。


そしてドラゴンの涙くらいのお金が入るならやる価値はある。

いもうとのため、薬のために今日も僕はお金を稼ぐ。 そう、いもうとのために。








ーーーー


ドラゴンの涙 : すごく珍しい様子。

 本来は貴重な物について使う。

本文のは誤用。リファイスくんは16歳で、そういう言葉が使いたくなるお年頃。











 

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