震感少女 -SENSE QUAKER-

猫師匠

プロローグ:心が揺れる音

私には、昔から変なところがあった。


それに気づいたのは、小学校の高学年の頃だったと思う。

他の子たちが「なんか今日、眠〜い」って笑ってる日、私は机に突っ伏して呼吸すらしんどかった。

世界が揺れてる――そんな感覚だけが、喉の奥で焼けるように残った。


それを「地震の予兆だ」なんて言えば、クラスの誰かが笑った。

「ひびきって、そういう中二っぽいの好きだよね~」って。

……そういうの、好きじゃない。苦しいだけなんだ。


最初は、誰にも言わなかった。

でも、言わなきゃ苦しくて、ひとりきりで壊れそうで、

だから親に言った――ら。


「あんた、おかしいんじゃないの」

母はそう言って、テレビのボリュームを上げた。

父は何も言わなかった。黙って、リモコンを取り上げて、別のチャンネルにした。


家の空気は、いつも無音だった。

なのに、私の心だけが、ずっと騒がしかった。


喉が焼ける。

眠れない。

夢を見る。

誰かの叫び。誰かの震え。誰かの――嘘。


そしてある日、私は“そこ”に連れていかれた。

八王子ドゥーマ支援センター。

名前だけは立派な、実質“収容所”だった。


「ここでちょっとだけ、ゆっくりしてみましょう」

市役所の人がそう言った。父と母は目を合わせなかった。

私は段ボールを抱えたまま、声のない部屋に放り込まれた。


六畳一間、テレビだけがある。ネットは禁止。スマホも取り上げられた。

笑っている職員はみんな同じような目をしていて、

優しそうな女の人は、私に妙に馴れ馴れしかった。


「ここでは“考えなくていい”からね」

そう言われたとき、私はああ、やばいなって思った。


……でも、もう、どこにも逃げ場がなかった。


それでも私は、揺れている世界を感じていた。

人の心が、街の空気が、社会の奥底が、

――びりびりと、震えていた。


それが私の始まりだった。

この“震え”が、私をここまで連れてきた。

私の名は――一ノ瀬 響。


そしてこれは、“揺れる世界”に立ち向かう少女たちの、物語だ。

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