赤い兎は黒に染まり、白い血を流す

きゅーつー

第1部

第1話 その昔、英雄がいた

今から話すのは、そう遠くない昔の話。

だが、今となっては、当時のことを鮮明に覚えている者はもういない。

覚えていた者も皆、死んでしまった。


そう、これは語り継がれている話なのだ。

英雄だったとある青年の物語を伝承として引き継いでいる。

私も引き継いだ一人である。

身勝手なお願いだが、私が死んだらキミに引き継いで貰いたい。


英雄と呼ばている青年は、英雄と呼ばれてしかるべき行いだったのだろうか?

結果として何が残せたのだろうか?

私には判断が付かないでいる。

この判断もまた、話を聞いて頂いた上でキミに委ねてみたいと思う。


前置きが長くなってしまった。申し訳ない。

では、話そうか――



――・――・――・――・――・――・――・――・――・――


もう夜半を過ぎた頃だろう。

漆黒の闇夜が深くなっている。月も無いような夜である。


「うぅ、さみぃな…。もうじきに冬が来るってか」

寒そうに背中を丸めた痩せぎすの中年男が声を漏らした。


その声を聞いて、野営用の焚き火に種火を起こす。

「ほら、ジード当たりなよ」

「ありがとよ、グレイ。あー、さむさむ…。おっ、冬が来たらお前が来てから5年ぐらい経つんじゃねぇか?」

「もうそれぐらい経つのか…。まだ目的を果たせてないことに腹が立つ」

「そら、しょうがねぇだろ。こればっかりは準備がモノを言うってもんだ。帝国様と喧嘩しようってんだからさ」

「はぁ…」



俺はグレイで、この中年男はジードという。俺らは【黒の結社】に属している。

王都【白の帝国】に仇なす組織で、王都からは超一級の犯罪シンジケートとして扱われていて、見つければ即、射殺・斬殺が認められている。

俺ら【黒の結社】は、王政に背いた者、王都で役に立たないと判断された者、原住民、そんな奴らの集団だ。

その時の役回りでチームに分かれて動いている為、全員で何人の組織なのかは5年経つ今でも把握できていない。


王都には高い壁がせり立っていて、周辺には基地が何箇所もあり、軍の兵士が見回りをしている。今回の役回りは、その王都周辺の斥候なので2人で動いていて、遠目に基地が見える森の中にいる。


中年男のジードは、王都の植民地開拓の侵攻のせいで生まれ育った街を丸ごと灰にされたが、隣町に出稼ぎに行ってたことで唯一生き残った原住民だ。

復讐を誓うために【黒の結社】に入隊したという経緯を持つ。

(敬語を使っていないけど、俺より入隊が早いからジードの方が先輩だ…)



「なぁ、グレイ。次の戦いは激しいかもしれねぇ。どうやら、俺らが武器製造の為に鉄を大量に集めてるのが漏れたらしい。漏れたもんはしかたねぇ。誰が…とかは考えるなよ?どうするかを早く考えねぇと、全員死んじまうぞ」

「そうだな…、新型のUNIT1000系が投下されたら厄介だな。諜報役のクロノ曰く、1000系は、背中に追跡型のロケットランチャーが積まれてるらしい」

「そりゃ、まずい。こないだのただのロケットランチャーでさえ、凌ぐので目一杯だったぞ」



【白の帝国】は、技術革新を絶対主義としており、近未来型の兵器を死ぬほど量産している。噂によると、最近の兵士にはミュータントやクローンも混ざっているとか。

それに対して【黒の結社】は、「トリガー」と呼ばれる自然の力を利用するロストテクノロジーを用いて対抗している。その古代文明を守ってきたのが、ジード達、原住民ってわけ。



「なぁ、ジード。炎の鉱石は余ってるか?今のうちに剣の柄に装着しておこうと思う」

「あいよ。でもよ、ロケットランチャー相手に近接戦闘できないだろ」

「いや、遠距離で被弾するかもしれないぐらいなら、近づいて斬る方に賭けたい」

カチッ。剣の柄の部分に鉱石を取り付ける。簡単に説明すると、これで剣からバーナーのような炎が出るようになり、敵の装甲を焼き切ることができる。


「いつも言ってるけどよ、命は粗末にするもんじゃねぇぞ」

「いいんだ、俺の命はあの焚き火より脆くても。あの日、死に損ねただけだ。」

「グレイはブレないねぇ、相変わらず可愛くねぇなぁ」

「うるせぇなぁ…」



そんな会話をしていた時だ、虫の音が聞こえていた静かな夜を警報の音が劈いた。

「ビー!ビー!ビーッ!!」


慌てて、あたりを見渡す。

「グレイ、まずい!あれを見ろ!!」

目を凝らして、ジードが指差した方角を見た。


いつの間にか、少し離れたところにある基地に、暗闇の中で鈍く銀色に輝く装甲車が配備されている。


「やば…、1000系の新型…」

と呟いた瞬間、一斉に数十発ものミサイルが発射された。

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