第三章 妹との時間

第11話 燐の帰宅。

 都内に1LDKの部屋を借りた。そして俺はコンビニエンスストアでのバイトを始めた。

 その部屋に燐を招き入れた。病気で心神喪失だった妹への対応が兄貴と二人暮らしなのは果たしていいのかと疑問に思うがまぁいいだろう。

 部屋に入った燐は終始一か所を見つめていた。

 居心地が悪いのだろうか、と不安に思ったがそれよりも晩飯の調理だ。

 今日はもういろいろと面倒なので炒飯を作ろうと思う。

 卵を炒めているとき燐がキッチンにやってくる。


「どうした?」

「なにしているの」

「炒飯炒めている」

「へー」


 無言で笑いもせず、「楽しみ」と言ったので本当に楽しみかどうか悩みどころだ。


「ねえ。私も手伝っていい?」

「いや、危ないからダメ」

「ええ」


 唇を突き出し上目遣いで見てきた。……どこでそんな表情を覚えてくるんだ。


「っていうか、しんどいだろ。テレビでも見ておけって」

「テレビ、変なのしかやってない」

「変なの?」


 俺はテレビをチラ見した。応援演説の中継が流れている。


「ああ。中継演説か」


 そうこうしているうちに炒飯が出来上がった。

 テーブルをまだ買えておらず段ボールの上に置いた。


「段ボール……」

「嫌か?」


 燐は首を振って、「いただきます」と炒飯を食べだした。


「しょっぱい」

「ああー胡椒入れすぎたか」

 それでも燐は嫌な顔一つせず食べ切った。

「ごちそうさま」

「うん」

 そのあと部屋へと燐が戻った。


「幼児化……か」


 燐は記憶障害のせいで重要な部分の記憶を根こそぎ封印している。どうしてか家族の名前は分かった。しかし俺のことはよく面会に来る人ぐらいでしか覚えていなかった。

 でもそれでも常識的な知能がなく一般生活も難しいものになるだろう、と医師から宣告されている。

 はて……どうしたものか。

「あっ、バイトの時間だ」

 時計を見ると十八時を回ろうとしていた。バイトだけは遅れるわけにはいかない。

 俺は着替えて外に出た。




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