第2話 面会
三日後。向こうの家族と挨拶をするためにファミレスに訪れた。
正直に言おう。驚いてしまった。
なぜなら痴漢から助けた少女がいたからだ。客としてではなく新たに家族となる四十代ぐらいの女性とともに席に座っていた。
ちなみにその少女も驚いていた。
「あ……痴漢のときの」
「ん? 痴漢?」
父の婚約者が疑わしい目で見つめてくる。
「そう。私が痴漢されていたときに助けてくれたの」
「へーそうなんだ」
女性が立ち上がり俺にソファに座るよう促してくる。
「自己紹介させてもらうわね。私の名前は大辺です。こっちが娘の南」
「…………南です」
名乗ったあと頭を下げた。
女性がけたけたと笑う。
「この子、人見知りなのよ。でも仲良くしてやってね」
俺は深く頷いた。
「もちろんです。お願いします」
すると気配を感じなかったが父がいた。口から魂が逃げ出そうとしている。
この緊張野郎が。まあいっか。その方が都合がいい。
「あの……藪から棒ですが俺の妹について知っていますか?」
「えっ? 妹さんがいるの? たしか息子だけって……」
死にかけている父に全員の視線が突き刺さった。そんな父は水を飲んで頬を赤らめた。
「そんなに見られると照れちゃうな~」
俺は我慢出来なくなって大きな溜息を吐く。勘弁してくれよ。
週頭。日曜日。俺は都内の精神病院に電車とバスを乗り継いで向かった。
精神病棟に着くと面会室に通された。
そこで約三カ月ぶりに妹――燐の顔を見る。燐はやつれていて挙動不審だった。
「斎木さん。久しぶりです」
目を合わせること無く淡々としていた。
もう二年近く燐から『兄』とは呼ばれていない。だからこそここに訪れるとわずかな寂寥感と焦燥を覚えるのだ。
俺は、燐にとって良い兄ではなかった。
燐が中一の頃、いじめられていたとき。苦しんで辛いときもずっと、俺は目を背けていた。妹の存在を自分の中から切り離した。
だから、俺はもう燐の兄ではない。
三十分の面談を終えて家路に着いていた。
上を見上げる。真っ白な入道雲がぷくぷくと浮かんでいた。
そういえば、燐は雲を見るのが好きだったな。
――お兄ちゃん。あの雲凄く大きいね。
突然のフラッシュバックに感涙しそうになってしまう。
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