第3拍【白昼夢 - 3rd】
「JOYSOUNDかぁ…私DAM派なんだけど、まぁいっか…」
部屋に入り、
「懐かしいよね、この3人で集まるの。小3ぶりとかじゃない?」
「そうだね…」
「テンション
「………!」
───なんだろう。今、ものすごく大切なことに気付いたような気がした。
「
「私は……」
「下向きすぎ……」
舞は下を向いて口を閉じてしまった。
「あぁもう、コミュ障どもめっ!歌おう!最近の流行りとかは……分かんなそうか」
「絶対分かる曲……これだ、これでしょ!」
そして
「ほら、真冬!」
「えぇ…!?」
「舞は?」
「いや……私歌えない…」
「そっか。じゃあ私が!」
マイクは2つ。私と
「この曲…Aメロだけやたら低いんだよね……」
男性ボーカルの曲であり女性が歌うには少しきついような気がすると思いながら、イントロで身構え、そして、歌い始めた。
「───」
───歌える。
───低音から、盛り上がりにかけてトーンを上げ、サビの高音も。
絞り出した歌声。
ただ、この
無意識のうちに、音を聴いて、音に体を乗せ、揺られる。
────そうだ。アイドルになりたいとか、それよりも先に。
私は、なんであれ、歌うことも、好きだった。
そして、音楽そのものが。
「……真冬……」
「……凄い歌声じゃん」
彼女が呟いたその言葉もまた、なんとなく、私を突き動かす原動力になったような気がして。
「舞。何か、リクエストある?」
「…じゃあ……『フライングゲット』」
「うわ、懐かしい」
「古くて悪かったわね」
「いいよ。分かるし」
そうして私は、その後も何曲か、このカラオケで主役として歌を披露した。
名曲たちの力か、はたまた私の歌が、舞に届いたのかは分からない。けれど、確かなことは、舞が私に向き合って、名前を呼んでくれたこと。
「……真冬っ…!」
「…なに?」
舞はほんの少しだけ目を逸らしそうになりながらも、それでもしっかりと、私の目を見た。
「………アイドル……やらない?」
「ぇ……?」
突然舞からこんな誘いが来ること自体がまず信じられず、聞き間違いかと思って聞き返す。
「アイドル、やらないかって聞いてるのよっ…」
聞き間違いじゃない。
私は、舞からアイドルをやらないかと誘われている。
「いや……私……」
私は踊れない。この貧弱な心臓では、激しい運動に耐えられないのだ。
「ダンスは私がやるから。だから、貴女は、歌って」
「……歌う……?」
「そう。貴女の歌声は、絶対に誰かの心を動かせる力があると思うの」
「私もそう思ったよ」
「私は、真冬は絶対アイドルになれると信じてる。というか、もう私にとっては真冬はアイドルだよ」
「
「……でもまあ、なんで急に?ってのはあるよね」
「私、歌えないのよ。喉が弱いの。すぐにかすれて声が出なくなる。歌えないことは致命的だった。……だから、私は諦めかけてた」
「そういう……」
踊れない私と、歌えない舞。そういう事だったのか。私たちは、アイドルになるために必要なピースを、片方ずつ持っている。
「…だけど、真冬の歌があれば。私だって輝けると思う。いいえ、絶対輝ける。…もちろん、有名アイドルグループなんて私たちじゃ絶対入れない。だから、
「…どうするの?真冬」
私がアイドルになる唯一の方法は簡単だった。それは、ダンスをしないアイドルをやればいいだけのこと。
「普通の道のりじゃないことはわかってる。そのうえでお願い。真冬。普通の人生で終わりたくないの」
そうだ。普通の人生じゃ終われない。
私は、だから、普通じゃない、特殊でもない、特別な存在に、なりたくて。
「───うん。いいね。やろうよ。インディーズアイドル」
「……!」
舞の表情は晴れた。
「ねぇ、
「……お望みとあらば喜んで」
「いいよね、舞」
「ええ。小学1年生の時、同じ夢を書いた仲間だから」
「すごい、覚えてるんだ」
「まぁ……大切な記憶だし」
そう。この3人で、同じ夢を書いた。
自己紹介用紙の『将来の夢』の欄に『アイドル』と書いたのが、この3人だった。
こうしてまた集まれたことに感謝し、私は前を向く。
「…よし。それじゃ、これから、よろしくね、2人ともっ!」
そして始まる。茨の道を歩み、人に光を届ける、アイドルの物語が。
……To be continued
兎白真冬の白紙の論理 連星霊 @Lunaaaaa
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