4-2
『随分と小さい足音ね』
初めて聞く音に紅い桜は枝を揺らした。
誰が来るのだろうか。
風が冷たいこの場所では人間は凍えてしまうのではないだろうか。
紅い桜は人間が立ちそうな場所、座りそうな場所に精一杯花びらを落とした。
黒色と灰色の世界に紅い絨毯が彩り、柔らかい花びらが優しい世界に見せようとするかのように微かに揺れている。
やがて、足音が小高い丘の頂上に辿り着いた時、嬉しそうに弾む声が紅い桜に届いた。
「わぁ!すっごく綺麗だ」
無邪気な悪意のない声に紅い桜は驚き、思考が停止した。
声の主は少年だった。
五、六歳くらいだろうか。
小柄で少し痩せている少年は、一冊の本を大事そうに抱え、目を輝かせ紅い桜を見上げていた。
「こんにちは!」
礼儀正しく頭を下げると、少年は戸惑うことなく紅い桜の幹に近づくとそのまま紅い絨毯の上に座り、幹に寄りかかった。
そのまま、持っていた本を開き、楽しげにページをめくる。
『えっと、何をしているのかしら?』
今までの人間と全く異なる反応、態度に困惑を隠せない紅い桜のことを知ってか知らずか少年は静かにページをめくる。
数ページを読んだ後、少年は更に幹に寄りかかると楽しげに話し始めた。
「僕ね、身体が少し弱いんだ。だから、誰とも遊べなくて。唯一の友達が本なの」
何度も読んでいるのだろう。
紙がよれ、破けた部分はできる限り補修をした痕跡が残っている。
「そしたら、皆に勉強ばかりするつまらないやつって言われちゃってね。なんだか腹が立つからここに来たんだ。紅い桜に近づくやつは変なんだって」
だったらとことん変なやつって思われようと思って
少年はくすくすと笑うと、本を傍らに置いて紅い花びらの絨毯に触れた。
「でも君は予想以上に綺麗だし、ここはとても素敵なように見える。なんで皆が不気味がるのか僕には分からないな」
分からないなら知る努力をすればいい
そう呟いた少年は名案だとばかりに頷いた。
「そうだ!僕が君のことを知って皆に教えれば良いんだ!」
その言葉に紅い桜は文字通り言葉を失った。
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