エピローグ(1)
▽
その後の話をしよう。
まず、恭くんがヒーローを演じたあの舞台は、全ての日程で大成功をおさめた。
わたしも最終日にもう一度見に行ったけれど、本番を経験することでヒロイン役の原さんの演技にもかなり深みが出ていて、同じ内容でも新鮮な気持ちで楽しむことができた。
原さんはあれから逃げようなんて考えることもなく、むしろ他の演者さんたちに歩み寄る姿勢を見せているのだと恭くんから聞いた。
「原さん、瑞紀ちゃんの言葉に思うところがあったみたいだよ」と恭くんは言うけれど、彼女は自分で考え自分で変わったに過ぎないとわたしは思う。
そして、その原さんはもう一つ大きな仕事を──いや本当にまじで、素晴らしい仕事をしてくれた。
『千秋楽ありがとうございました~! 天羽恭くんとも思い出に一枚♡』
そんな文言と共に、原さんは自身のSNSで恭くんとのツーショット写真をアップした。
なんとめっちゃバズりました。
『ええ~! この人めっちゃイケメン! こんなかっこいい人何で今まで知らなかったんだろう』
『調べてみたらドラマの脇役なんかで結構出てるみたい』
『天羽恭くん……これは沼……』
といったようなコメントが、舞台を見に来てなかった人からもたくさん寄せられた。
それを見てわたしはもうすんごいニマニマしていた。
そうそうその調子。
全世界の全人類知ればいいんだよ。
わたしの推し……
……兼、彼氏の素晴らしさをね!!!
それから、わたしはある大きな決断をした。
「……本当に言っているのか?」
舞台の千秋楽が無事に終了した後の部活で、わたしは恭くんに付き添ってもらいながら部長に話をしに行った。
「はい。文化祭でやる演劇部のステージ、わたしも出演させてください」
どうしたって、わたしは演技が好きだ。
芸能界に戻るつもりはないけれど、戻らなくたって舞台に立つことはできる。
「ただものすごくわがままなんですけど……部長に、こういう台本を書いてもらいたくて……」
部長にお願いしたのは、簡単に言えばわたしのためだけの台本だった。
セリフを覚えられないなら、アドリブで乗り切ればいいじゃない……の精神。
設定、展開、照明、小道具などはきちんと用意されてはいるものの、はっきりとしたセリフは決められていない。だいたいこんな感じ……で進めていく。
だけどそんな内容のもの、他の部員が対応できるわけもない。
だから……
「出演者は、わたしと恭くんの二人だけで。部員じゃない恭くんを出演させるのは迷惑かもしれませんけど、できますか?」
「なるほど、なかなか無茶なこと言ってくれるな。……だがやろう。武藤が舞台に立つ姿は、見たいからな!」
「俺も部長さんの書く話好きなので期待してますね」
恭くんは何だか上手いこと部長をおだててくれた。そしてそのおかげか、想定していたよりずっと早く台本は出来上がった。
そこからは、ただひたすらに練習を重ねる毎日。恭くんも忙しい合間を縫って付き合ってくれた。
やっぱりブランクは大きい。
役者を辞めてからはボイストレーニングなんてもちろんしてこなかったし、演技力も格段に落ちている。
それでも……すごく楽しかった。
──と、そんなこんなで本日本番を迎えることになった。
「緊張してる?」
発表の場は文化祭特設ステージ。まあ要するにちょっと飾り付けられた体育館なのだけど。
うちの学校の文化祭は三日間行われ、一日目は全校生徒が体育館に集められ、わたしたち演劇部のような文化部の発表を見ることになっているらしい。
今回演劇部は、先輩たちの劇とわたしたちの劇の二部構成。
そして現在先輩たちの舞台が始まったところだ。
最初は先輩たちの前座的な感じでやろうと思っていたのに、それはすごい勢いで拒否され、むしろ演劇部としてはわたしたちがメインという扱いになってしまった。まあ
そんな状態で、ブランクたっぷりのわたしはといえば……
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