3.知らない、知り合い
一体ここは、どこなのか。私には分からなかった。
時折だが、私は現実が映画のように見える事がある。何をいっているのかと思うだろうが、そうとしか言いようがない。話していても、自分以外の誰かが後ろから話しかけているように見えるのだ。相手は自分ではなく、後ろを見ているように見えるのだ。
他にも、気づけば見知らぬ人と友達になっていたり、記憶にない怪我ができていることもある。全くもっていい迷惑である。誰かが記憶操作でもしているんじゃないかと思うくらいに。
話は戻るが、冒頭の通り私は迷子になっている。これも記憶のない出来事の1つとして、数えられるだろう。
先程の記憶では、確かに大阪で買い物をしていたのだ。東京に行くにあたって、友人に渡す土産を選んでいたのだ。それが今は、まったく知らない森の中でコーラを飲んでいた。
―一体ここはどこなんだ。どこからか来たんだ、私は―
辺りを見渡すと、遠くに看板があるのが見えた。近づくと、『東京都立 ●●公園』と書かれているのが分かる。こんな場所にも家があり、川がある。人もそこそこいるだろう、と思いうろつくが、一向に誰も現れない。
どうにも気味が悪い。私は森の外へ向かって歩き出すと、人の足音が聞こえてきた。誰か来たのか、と振り向くとそこには誰もいなかった。足音は確かに聞こえるのに、気配も姿もない。背筋がゾワッとして、すぐさまそこから去った。だが、走っても走っても一向につかない。迷子だ、迷子になっていた。
しばらく歩いていると、小屋が見えた。ドアをノックすると中から中年の男性が出てきた。とっ散らかった髪の毛に、短い顎髭が目立っている、浅黒い大男だ。彼は私をみるなり目を丸くして、中に入るように言ってきた。
「ほう、迷子になったのか。だから言ったんだ。送っていこうかってよ。まったくお前って奴は」
私とこの男は知り合いだったのか。いや、人違いである可能性もある。確かめるしなさそうだ。
「えっと、あなたは誰ですか?誰かと間違えてませんか」
すると、大男はキョトンとした顔でこちらを見ると、後ろ髪をかきはじめた。
「あー。そうだったな。初めましてか」
何か引っかかりを覚えながらも、彼は親切に私を駅まで送ってくれた。
それからというものの、記憶は毎回飛んでは森の中にいた。この森には一体何があるのだろうか。私は帰りに大男に渡された、手紙を読んだ。
****
森の中はいい。誰にも見つからずに、処理ができる。友達も、両親も縁を切ったら捨てられる。それこそ、倫理観の高すぎる私にバレることなく行える。
アイツは頭が固すぎて仕方ない。友達だから嫌いにならないだなんて、今どき小学生でも思わないろう。ああ可哀想に! どうしようもない大馬鹿者め。自分で自分を追い詰めていることに奴は気づいていない。
だから、アイツが来たら俺のことは教えずにそれとなく帰しほしい。頼んだぞ。
****
この人は、一体誰なのか。私はどこから来たのか。それは、きっと"私"だけが知っている。
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