第14話 稀人選別会議開始

 昨日来た稀人保護機構の建屋に着いて、中を進みやがてとある部屋に通された。この部屋は昨日来たのと同じ部屋だ。部屋に置かれたソファに腰かける。


「こちらで少しお待ちください」


 そう言って、ハイノとラウホが出て行った。少しして、ラウホがお茶と茶菓子を持ってきた。


 ソファにぐっと寄りかかって、ふーっとため息をつく。さて、稀人選別会議だがどういう物なのだろうか? 聞く限りでは、就職活動時の面接みたいな印象を受けたが。圧迫面接みたいな感じだと困るな。最近は日本でもそんな事やったら大変な事になるぞ。



 そのまましばらく待っていると(流石にもう大丈夫だろうとお茶と茶菓子も頂いた、結構美味しかった)、部屋のドアがノックされ、ハイノとラウホが入ってきた。


「お待たせいたしました、ヒラガ様。会議の準備が整いましたので、移動をお願いします」


「分かりました」


 そう言って俺はソファから立ち上がった。少し硬い表情を俺を見てか、ハイノが声をかけてきた。


「ヒラガ様、以前に説明しました通り、重苦しい会議ではございません。気楽にご参加ください」


「……はい」


 ハイノとラウホに続いて、部屋を出て機構内を進んで行く。やがて、とある部屋の前で立ち止まった。大きな両開きの扉があり、中の広さが伺える。


 ハイノがノックしてから、声を出す。


「稀人様をお連れ致しました」


「うむ、入れ」


 中から入室を促す声が響く。ハイノがドアを開けた。


 中を見ると広い会議室のような部屋の中央に置かれた大きな丸いテーブルの片側に、十人ほどの人が座っている、その内二人は耳の先がとがっている。あれがヴィリエ王国のエルフというやつだろうか? 顔の造詣も整っていて、日本のファンタジーで出てくるエルフそのものだな。


 他には軍人のようなパリッとした服を着たガタイの良い若い男性、いかにも商売人という感じの恰幅の良い中年男性、五十代ぐらいの黒髪ロングヘアの上品そうな女性、様々だ。


 丸テーブルを挟んで向かい側に、立派な椅子が一脚、その周りに二脚の椅子が用意されている。多分、こっちが俺たちが座る場所だろう。


「ヒラガ様、そちらの椅子へどうぞ」


 立派な椅子を促されたので、そのまま座る。両隣の椅子にハイノとラウホが腰かけた。腰かけて少ししてから、ハイノが声を出した。


「それでは、異世界よりの来訪者にあらせられる稀人、コウジ・ヒラガ様の稀人選別会議を開始させていただきます。進行は稀人保護機構メルスー支部長である私ハイノ・ヘルトリングが務めさせていただきます」


 それと同時に、向かい側の人たちが拍手する。


「なお、稀人様に対する失礼な言動や恫喝などはお控え頂きますようくれぐれもよろしくお願いします。当方でそれを現認または稀人様からのお申し出があった場合、ペナルティを課させていただきます」


 ハイノの声に静まり返る会議場。少しして軍服を着た若い男性が挙手をした。


「どうぞ」


「稀人様、私はブリュッケン帝国の皇子の一人であるエーリック・ブリュッケンと申します。以後、お見知りおきください」


 随分力強い声だ。鍛え上げているのかガタイも良い。というか、文官とかではなくわざわざ国の皇子が来るような会議なのかこれは。


「失礼ながら質問させて頂きたい。向こうの世界でのご職業は何か? 差し障りなければお応え頂ければ」


「ええと……、会社員ですね」


「ふむ? 会社員とは?」


「もしかすると、こちらだと会社じゃなくて商会とかですか? 勤め人ですね」


「なるほど、普通の商会にお勤めというわけですね」


 ああ、そうだ。名刺を見せるか。


「向こうの世界では自分を紹介するためのカードがありまして。良ければご覧になりますか?」


「是非とも拝見したい」


 そう言われたので脇に置いた鞄から名刺入れを取り出し、名刺を出した。ラウホに渡すと、向こう側の席まで歩いて行ってエーリックに名刺を渡した。


「ほう、これが。何と書いてあるのかは分かりませんが、極めて精密な肖像画が載せてありますね」


「それは写真ですね」


「写真?」


「実際の風景を撮像した物……ですね。こちらでも少し前に実現した者がおりますよ、ここまで精密かつカラーではありませんが」


 五十代ぐらいの女性が皇子にそう答えた。


「それは真か、クタラギ殿。つまりこれは肖像画を描いたものではなくて、現実の風景をそのまま転写したものという事か。やはり向こうの世界はだいぶ進んでいるのだな」


 スマホの事を言ったら取り上げられそうだな。しかしクタラギか、ずいぶん日本っぽい名前だ。


「現在のご職業については分かった。時にヒラガ殿は軍務に関わった経験はお持ちか?」


「いえ、無いですね。私がいた国では徴兵制度がなかったもので」


「軍が無い国などありえぬゆえ、ヒラガ殿の国は志願兵制で、ご本人は志願しなかったという事ですかな?」


「その通りです」


「ふむ……、そうですか。お答えいただきありがとうございました」


 少し残念そうなのは、そういう経験がある人間が欲しかったからだろうか?


「稀人様、次は私が伺ってもよろしいですか。こちらの世界へお越しになる際にお持ちになった荷物についてですが……」


「お待ちください」


 恰幅の良い中年男性の質問を、ハイノが途中で遮った。


「稀人様のお荷物について質問する事は許可できません」


 まあ、荷物目当てで契約みたいなのは駄目って事だろう。


「左様ですか……。失礼いたしました」


 渋々と言う感じだが、恰幅の良い男性は引き下がった。


「稀人様、次は私からも質問させて頂いて宜しいですか?」


 耳が尖ったエルフのような女性が、挙手した。この質問会けっこう長くなるのかな……。



 その後、一時間にわたって十人から代わる代わる質問をされ、答えられそうな質問には全て答えた。研究開発の経験やら、農業の経験やら、商会運営の経験やら、公務の経験やら、質問は多岐に渡った。


 だが、俺はただの平凡な勤め人というのが分かったのか、どうしても欲しい人材とは思われていないようだった。まあ、そりゃそうだろう。


 質問が尽きたのか、議場が静寂に包まれた。ふむ、どうやら終わりっぽいか?


「他にご質問は有りませんか? では、稀人様をスカウトしたい方はいらっしゃいますでしょうか?」


 誰も挙手しない。これはニートルートへ進みそうだな、まあ毎年一千五百万円相当の金が貰えて、税金はかからない、完全に自由ということであれば悪くはない、帰る手段を探させてもらおう。そう思ったその時だった。


 一人がゆっくりと挙手した。


「少しお待ちください。最後に一つだけ伺ってもよろしいでしょうか?」


「クタラギ様、どうぞ」


 クタラギと呼ばれた五十代ぐらいの上品そうな女性はハイノがそう言うと小さく頷き、俺をまっすぐに見つめこう言った。


「稀人様、いやヒラガ様のお国は大日本帝国と関係がございますか?」

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