第22話 鬼想い③
にらみ合う、騎士と鬼。
「決着ったって、剣もねーのにかたをつけれんのか?」
鬼頭さんは足元に落ちる剣を強く踏みつける。
だが――
日和さんが腕を伸ばして手を広げると。踏まれた剣は勝手に足を抜け、宙を飛び、まるで引き寄せられるように日和さんの手に収まった。
「な、なに?」
そんな便利なことができるのか。
「覚悟なさい!」
日和さんは剣を両手で強く握り、剣の先を鬼頭さんへ向ける。
「なまいきなクソ女が……」
鬼頭さんの握る拳からは、爪が食い込んでいるのか血が滴っていた。
殺意を持って無言で見つめ合う二人。
そこの間には目に見えるオーラが放出されている。
重々しい、鈍紫の感情と、緋色の感情。
グラウンドは二人のオーラで空気がよどむ。
重たい空間に、ガタゴトと隣を走る電車の轟音が響いた。
日和さんが一歩足を踏み込んだ。その刹那に鬼頭さんは、また直線に飛び込むように殴りかかる。
突き出す重々しい拳。
それを日和さんは、剣の側面で受け流した。
そしてそのまま体を回転させるように懐に入り込み、胴体に斬りかかる。
「くそ!」
そこに鬼頭さんは蹴りを入れるが、日和さんは背後に飛ぶように距離を取って避けた。
鬼頭さんの腹部には切り傷程度の浅い傷ができている。
日和さんは無言のまま、集中したようにもう一度斬りかかろうと近づく。そこへ鬼頭さんはハイキックを返した。だが日和さんは前方に腰を曲げて避け、今度は足元に傷をつけた。
「ちょこまかと、虫のようによけやがって!」
鬼頭さんはイラつくように続けて何度も、殴る蹴ると攻撃を仕掛ける。
けれど日和さんはそれらをすべて避けて、受け流して、隙を見つけては幾度も身体に切り傷を付けた。
「この野郎!!」
鬼頭さんはさらにキレた。
その瞬間に、拳が発火した。
一瞬で腕全体まで炎がのぼると、鬼頭さんは地面を強く殴った。
すると周囲に、瞬きをする間に炎が広がり、日和さんはその炎を食らってひるんでしまう。
鬼頭さんはそこへ間髪入れず拳を入れるも。
カンッ! と、まるで刃物同士が合わさるような高い音を立てて。
日和さんは剣の刃の部分で、拳を受け止める。そのまま、まるで鍔迫り合いをするように、拳と剣をぶつけ続ける。
刃にも負けない、硬く恐ろしい鬼の拳だ。
一度間合いを整えるためか、鬼頭さんは蹴りを入れた。日和さんは腕で身を守るも、身体は後ろに押され、距離が開かれる。
鬼頭さんの身体は切り傷だらけになり、腕や足、腹筋や背筋と複数の個所から血が流れていた。
日和さんは無言のまま、剣の先を向けている。
「ほ、本気で殺す。殺してやる!!」
鬼頭さんは焦りを見せるように、しかし殺意をむき出しに怒号を浴びせる。
「……ね」
小声で日和さんは何かつぶやいた。
「あ、なんか言ったか?」
「……死ね」
し、死ね!?
直球な言葉。小声でも伝わる殺意。
日和さんの目が怖い。いつもの、優しく柔らかい彼女の目つきからは想像のつかないほど、眉をひそめている。
「こ、こいつ!!」
鬼頭さんは両手を発火させた。
そして片方の拳を、空中を殴るように、日和さんの方に向けて力強く突いた。
すると、拳から炎の弾が放出され、日和さんの方へ猛スピードで飛ばされる。
「鬼火をくらえ!」
投球のような速度で飛んでいく、臙脂色の炎の塊。
日和さんはそれを剣で斬って消すも、鬼頭さんは何度も何度も続けて宙を殴って鬼火を放った。
それを日和さんは、歩き寄りながら斬る。火の玉を斬って消しながら近づき続ける。
鬼頭さんは火の玉を出すのを止めると、今度は片手にぐっと炎を溜めた。
一瞬にして片手に業火が発生する。
そして業火の拳を力強く、日和さんの方へ向かって突き出した。
「うらっ!!」
とたん、拳の先から、炎をまとった大きな波動が広がった。
空気を揺らす振動。離れたこちらまでその大きな衝撃は伝わる。
肌を焼くような熱。飛び散る火の粉、一瞬で目が乾く熱風。まるで爆発のよう。
僕は咄嗟に両腕で顔を覆う。
その波動を、日和さんは紫に光らせた剣を縦に振りかざして受け止める。だが衝撃は強く、それに押されてしまい、弾かれるように身体がのけ反った。
その無防備な状態になった状態へもう一発。鬼頭さんが、もう片手に溜めていた業火の拳を、正面に突きつけた。
「あ、危ない!」
同じ大きな波動が日和さんを襲う。
「うあああ!!」
日和さんは顔を守るように防御をし、なんとか地面に足をぐっと踏ん張ってとどまった。
だが波動を受けた鎧には大きなヒビが生えていた。
心配になり、僕はすぐに駆け寄ろうとするも。
「来るな!!」
日和さんらしからぬ威圧的な声が僕の足を止めた。
日和さんはすぐに剣から大量の光を流出した。すると――
まるで光のような速さで鬼頭さんの間合いに入った。
目にも止まらない、まるで瞬間移動のようだ。
そして横向きに大きく剣を振りかざす。
「はあああああああ!!」
鬼頭さんはとっさに、両腕を赤く光らせてガードした。だが、日和さんは踏ん張る足元を凹ませながら、剣の勢いを一気に増していき。
「うああっ!」
鬼頭さんを吹き飛ばしてしまった。
鬼頭さんはグラウンドの端の方まで大きく吹き飛んだが、足から着地する
すると、近くの木々の根元に落ちていた石を手に取っては、日和さんの方へ投げつけ始めた。
日和さんはそれを剣で落としながら走って近づいていくも。
拾っては投げ続けられる石は次第にスピードを増し。そして途中から火が灯された。
発火した石に、日和さんの落とそうとする剣も徐々に跳ね返されそうになる。そのため、途中から燃える石を避けるようにして近づいた。
鬼頭さんが石を投げる手を止めると、近くに設置されるベンチを両手でつかんだ。
ベンチなんかで何をする気だ。
「ふんっ!」
メキメキという音を立てながら、ベンチが地面から引っこ抜かれてしまった。
「オラアア!!」
そしてそれを日和さんめがけて投げつける。
「隙が多い!」
しかし日和さんは走り寄りながらそれを軽々と避けてしまうが。
鬼頭さんの手から投げつけられたベンチにかけて、赤い炎の糸のようなものが伸びていた。
「な、なんだあれは!」
その炎の糸を引っ張ると、ベンチは日和さんの方へ引き寄せられる。
日和さんは光らせた剣でそれを真っ二に斬った。
しかしその隙を狙い、飛びかかった鬼頭さんの燃える拳が――
日和さんのお腹に入ってしまった。
「ぐはっ!!」
鎧が砕け、日和さんが大きく吹き飛ばされる。
「ひ、日和さん!」
ふき飛ばされた日和さんはすぐに立ち上がるも、口から血を吐いていた。
僕はすぐに彼女の元へかけつけた。
「だ、大丈夫!?」
アワアワする僕に笑顔を見せて。
「大丈夫、そんなに痛くはないから」
と言いながら僕の腕をつかみ、背後に隠れるようにと引っ張っられた。僕はその力強さで地面に倒れてしまう。
「くそ! またイチャイチャを見せつけやがって。くそっ!! くそっ!!」
鬼の怒号が響いた。鬼頭さんは地団駄を踏む。
地響きが起こり、木々が揺れ、電灯が点滅する。大地を揺らすほどの怒りだ。
「ぶっ潰してやる。肉も骨も砕けるくらいに、ミンチにしてやる!!」
怒りと嫉妬を重ねに重ね、身体からは蒸気を発っし、爆発してしまいそうな勢いだ。
鬼頭さんは腰を深く落とすと、片手を強く握るようにして拳をつくった。
その瞬間、辺りの大気がバチバチと火花を散らした。
怒りのこもった拳は紅色に光り、そこへ臙脂色の鬼火が溜まっていく。
「これで終わりにする」
さっきまでとも違う、拳から感じる強力なエネルギー。それは、今見てきたものとは違う、やばいものが来るとわかる。
日和さんも剣にエネルギーを込めた。辺りにギラギラとした粒子を放ちながら、刃を頭上に掲げる。すると、剣からは大きな光が発生した。
「私の剣は、あなたの自分勝手な欲望を斬り裂く!」
日和さんの剣の光は月を目指して伸びた。そしてその光は収縮され、剣に溜まっていく。
「……木野くん。オレは熱烈にお前が好きだ。この拳は、お前に向けた想いそのもの――」
ブワッと赤い熱風が押し寄せた。
「オレのこぶしは、”熱愛の拳”だ!!」
鬼頭さんが力強く空気を殴った。
先どとは比べものにならない、大爆発のような炎の衝撃波が広がる。
地面の砂土が爆ぜながら勢いは伸びる。まるでビッグバンのように燃え広がり、噴火のような爆音を出し続ける。
「私の想いは、あなたに負けない。これは私の、”最愛の剣”!!」
猫俣さんとの戦いで見た、大きくて、ギラギラとしている巨大な光の剣だ。
日和さんの剣は輝きながら、鬼頭さんの衝撃波にぶつかった。
「うあああああ!!」
光の粒子を大量にまき散らし、耳の中に響く音を立てながら、剣が衝撃波を斬っていく。
しかし――
鬼頭さんは拳をこらえるように、耐えるように突き出し、波動波を押し出し。
衝撃波に押され、剣を振り下ろす腕は徐々に返されていく。
鬼の衝撃波に、押し返されそうになっている。
「だ、だめだ!」
押し負ける。このままだと、日和さんが負ける。
熱愛の拳に焼かれ、つぶされる。
それはいやだ。だめだ。
「日和さんっ!」
僕は、日和さんの背中にしがみついた。踏ん張るように、腰を下ろして。
「な、何やってるの星也くん!!」
僕は腕を伸ばした。必死に剣を振り下ろす手を、上から握る。
「僕は、何もできないけれど、こんなことをしても意味ないことは分かってるけれど。でも僕は嫌だ。このまま日和さんが押し負けてしまうのを、ただ見てるだけなんて嫌だ!!」
「せ、星也くん……」
こちらを振り向く彼女の顔は、とっても嬉しそうだった。
「ふんっ――」
すると途端に彼女の光が、剣が大きくなる。
「ありがとう、星也くん」
剣はだんだんと大きくなると、衝撃波の勢いを押し返していく。
これは、日和さんの僕に対する想いの力。
「私の、彼への想い、くらいなさい!!」
巨大な光の剣は、いとも簡単に衝撃波を切り裂き、破裂させてしまった。
「そんな、そんなっ……」
そして爆風の中、剣は鬼頭さんを一瞬にして飲み込んだのだった。
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