アイテムクリエイター ロマンを創る為に今日も彼女はダンジョンを探索する

アルファディル

第1話 ただの素材集めです

「優、ダンジョン配信するの?」


午前の授業が終わり今は昼休み、校内で最も涼しく食事も取れる食堂へと向かったクラスメイト達のお陰で人気のなくなった教室を友人である月野舞と独占し、向かい合わせにした席で昼食を取りながら先日一人暮らしをしている明星優の元へ遊びに来た優の祖父、織元仁の話をしていた


「そう、昨日おじいちゃんから私がどんな風にダンジョン探索をしているのか見たいって、設定も全部終わらした機械と私用のメモを持ってきてお願いされてさ」


作業の休憩中暇だからって理由と行動力がおじいちゃんらしいよね、私も特に断る理由となかったからOKしたんだぁ」


ダンジョンがこの世界の各地に現れて早数十年、当初こそ混乱で包まれたこの世界だったが政府の働きかけによりダンジョンは厳重に管理、監視をされており今となってはそこから持ち帰られた資源により作られた様々なアイテムが人々の生活を豊かにしていた


ダンジョンの出現と同時に人々に現れたステータスやスキルを使い、資源回収やダンジョン攻略をする者達を【探索者】と呼び近年ではそれらの様子を配信するダンジョン探索配信が一大ブームになっている


「一応おじいちゃんには私の場合、ただ素材集めするだけで特に喋ったりもしないよとは言ったんだけどそれでもいいからって」


「(優のそれは普通じゃないと思うけど)そうなんだ、配信はいつするの?」


「放課後するつもりだよ、時間に関しては配信予約?が分からなくて正確には分からないけどダンジョンにつき次第始めるつもり」


自身で製作した物以外を扱う事が苦手な優はメモ通りにすれば配信出来ると言う祖父の言葉を信じて自分から機材の確認はしていない。と言っても配信にあたり必要なのは、撮影用のドローンのみでドローンから表示されるモニターから操作が可能


だからこそ優もメモを頼りにかろうじて操作ができる、祖父に1時間近く教えてもらった上でだが


「今日は八王子の鉱石ダンジョンに潜るつもりなんだぁ、作ろうと思ってる殴れる砲撃盾のためにうんと頑丈な素材が欲しいから。いまからどんなものができるかと思うと…えへへ、とっても楽しみだなぁ」


食事を済ませた後にも関わらず、御馳走が目の前に広がっているかの様に涎を垂らす優へ苦笑しつつポケットからティッシュを取り出し口を吹く舞


「素材というかアイテム製作の事になるとほんと節操なくなるね優。ほら顔こっち向けて、涎拭くから。それにしてまた奇天烈な武器を作るつもりなんだね」


「ありがとうマーちゃん。そう言われても私にとってはそれこそがダンジョンに潜る意味でもあり、目的の一つでもあるんだから。自分の手でロマンを生み出す!これ以上にロマン溢れる事、私にはないよ!」


新しいおもちゃを見つけた子供の様に目を輝かせながら力説する優に力の抜けた笑みを浮かべながら「そうかもね」口にする舞


「そうだ、チャンネル教えてよ。一緒に潜ったりはするけどソロは見た事ないし、興味あるから」


「いいよ、えっと確かスマホにおじいちゃんが連携?っていうのをしてくれたから…?」


鞄の中からスマホを取り出し、優は自分のチャンネルを教えるためにスマホと睨めっこを始める


「分かったスマホ貸して。え〜とこれかな、【ダンジョン探索ロマンチャンネル】絶妙なネーミングセンスがおじいさんっぽいね、それと一応自分の事はチャンネル名にもあるロマンって名乗っといた方がいいかも。身バレしても優なら大丈夫だと思うけど」


その様子を見かねて舞は優からスマホを借りると、優以上に優のスマホを操作して配信用アプリを立ち上げてチャンネルを見つける、舞のスムーズなスマホ操作に対して小さく拍手を送りながら感謝をする優


「ありがとうマーちゃん、まぁただの素材集めだし人が集まるとは思えないけどそう名乗っとくよ。やっぱり持つべきはインターネットに詳しい友達だね!」


「これくらいスマホ持ってる人なら知ってる常識だよ優。はい、スマホ返すねそろそろ昼休みも終わるから片付けようか。配信楽しみにしてる」


「うん、楽しめるかは…正直分からないけど楽しみにしといて」


「なにそれ」と言いながら広げた弁当を片付けて席を元の位置に戻す2人


「ま、優の事だから絶対人は集まると思うけど」


「何か言った?マーちゃん」


「何でもないよ」と少し笑いながら口にする舞に疑問を持ちながらも片付けを終え、授業の準備を始める優だった







時は進んで放課後、帰宅し準備を終わらした優は早速今日潜る予定の八王子ダンジョンへと足を運ぶ、ダンジョン外部に設置されている施設で受付をする優、元々ダンジョンの入り口は大小様々で地面から生えるように出現しそこを通ることでダンジョンに挑む事ができる


内部に入ると地球とは違う異世界が広がっており、探索者間ではテレポーションゲートと呼ばれているそれを政府は管理するための施設をゲート周辺に建築、ダンジョンから持ち帰ってきた素材やアイテムの売買も行っている


「はい、確認終わりました。気をつけて帰ってきてくださいね」


受付にダンジョン探索者用のデバイスを返されながら言われたのに対し「はい!」と返事をする優


過去ダンジョン内での事故、犯罪が多かったのもあり政府から支給される自身のステータスや個人情報を表示できる身分証がわりのデバイス提出が義務化されており、万が一デバイス紛失したとしても本人が魔力を通さない限り個人情報が漏洩される事はないが再交付には少なくない額が必要となる


受付を済ませ広いかまぼこ型の通路を歩きテレポーションゲートの近くまで来ると、通りの隅っこに寄り人の邪魔にならない様にして腰に取り付けてある自作のバックからメモとドローン、そして今日使う武器である頭の部分が片方長い両手持ちハンマーを取り出す


必要なものを足り出し終えた優はハンマーを壁に立て掛けて、メモを頼りにドローンを起動しそこから表示されたモニターを操作して配信準備をする


「えぇとこれでいいんだよね?一応マーちゃんにも帰り道で確認してもらってよかったよ。わたしだけじゃ不安だったし…ん?ぷらいべーと配信?特定のユーザーしか見ることができない設定?これっておじいちゃんやマーちゃんが見れなったりするのかな?メモには…何も書かれてない。2人共見れないのが一番嫌だからもう一つのオープン配信でいいや、これなら2人とも見れそうだし」


最後の操作を終わらせドローンに赤いランプがつく、メモ通りとはいえ自分がここまでスムーズに起動できた事に感動し頬を緩ませる


「お!赤く光ったってことは配信始まったよね?不安だったけどうまくいってよかった。おーいおじいちゃんにマーちゃん、見えてる?いつも通り素材集めしていくから暇つぶしに見てね。それじゃいくよ」


そう言って壁に立て掛けたハンマーを取りドローンに背を向けてダンジョン内部へと入っていく、ゲートを潜ると道が直線上に続いており壁は鉱脈ダンジョンと呼ばれる所以でもある岩肌で覆われていた


その中をダンジョン特有の光る石、発光石を頼りに優は奥へと進んで行く。道中のモンスターはハンマーの一撃で倒しドロップした素材やモンスターの核を拾いながら先へと進む


「やっぱりこのハンマーできて正解だったよ。見るからに斬撃や刺突に強そうな見た目だけど、打撃系の攻撃は通りがかなりいい。他の武器でも倒せるけどこっちの方が楽だね」


ダンジョンには大きく分けて上層、中層、下層、そして特定のダンジョンに存在している深層の四つに別れており、例外を除きエリア毎のボスを倒す事で次層へと降りる扉が開放される


上層を危なげなく通過した優は今しがたドロップした中層エリアのモンスター素材を拾い力を込めると鉱石ならば砕け、インゴット系なら変形する様子を見て納得する


「うーん、やっぱり中層の素材じゃ鉱石ダンジョンとはいえ耐久性に難ありだなぁ、殴れる砲撃盾にする以上脆いと一発で壊れちゃうし。インゴットも目当てのやつは下層にしかないからさっさと下に降りよう」


そのまま止まる事なく中層最終エリアのボスである【ノームタートル】を倒すと優は下層へと足を踏み入れた


戦闘を行いながら進んで行くと一際大きな入り口の前に辿り着く、入り口に近づきそこから中を覗くとこのエリアで一際存在感を放つ小山を背負った様な四足歩行型のモンスターが所々杭の様に地面が突き上がっている部屋の中心に佇んでいた


「お?硬そうな素材!サイズも大きいし魔力量から見てもこのエリアのボスだよね。下層から下はボスが変わる事もあるから今回は運がいい!名前は…【ロックガンタートル】いかにも硬そうな見た目と名前だしこれなら殴れる砲撃盾のいい素材になりそう!やっぱり硬い素材が欲しいなら鉱石ダンジョンだよね!!」


目当ての素材を見つけて興奮した様子の優はハンマーの頭が短い方の先頭にバックから専用のアタッチメントを取り出して付け、一呼吸おくとドーム型のボス部屋へと走りながら入っていく、そんな侵入者に気付いたのか優に顔を向け咆哮するロックガンタートル


聞くものを威圧する咆哮に臆する事く走っていると、優を中心に周囲数カ所の地面から魔法陣が展開され無数の鋭い杭が優を貫こうと地面から迫ってくる


「やっぱり地面から出てた杭は魔法で出てきたものだったんだ。スピードはあるけど軌道は直線的だし避けるだけなら問題なさそう」


そう言って向かってくる杭を避け、ハンマーで砕き最初からあった杭を足場に使いながら距離を詰めていく


その攻防が暫く続くと自身の攻撃が当たらない事に痺れを切らしたのか、再度咆哮すると同時に振り上げた脚を地面へと叩きつけるロックガンタートル


振り下ろされた脚を中心にフロアの地面全体を埋め尽くすほどの巨大な魔法陣が展開されのを見て地上にいたままだと無抵抗でこの魔法を喰らうと考えた優は、即座にその場にしゃがむとボス部屋の天井に向かって跳んだ


天井に着くまでの間地面を見ると、先程まで硬い地面と突き上がった杭で出来ていた地上が一瞬で沼地へと変貌していく


「危ない危ない、あのまま地上にいたら身動き取れなくなってたよ。最初からあの魔法を使わなかったのはあれをすると自分も動けなくなるし杭の魔法が使えなくなるからだよね、となると残る攻撃手段は…!」


天上に向かっていく優を睨む様に見上げているロックガンタートルの口からは膨大な魔力が収束されていた


「沼地で足を止めて動けないところをブレスで仕留める。シンプルだけどエグいことするなぁ、でも撃つ前に止めちゃえば問題ないよね?」


優は天上に着地しハンマーの持ち手を捻る、そうして頭の長い方に閉じ込めていた外装をパージし変形、展開されたブースターへと魔力を込め起動、それと同時に再度屈んでロックガンタートルへ向け垂直に自らを天井から射出した


跳躍と魔力によるブースターの推進力で弾丸を超えるスピードで接近しながら、優は落下中の自分を軸に縦回転し遠心力も味方につけロックガンタートル目前まで迫る


「せーーーのっ!!!」


勢いを殺さずロックガンタートルに向けてハンマーを振り下ろす。その瞬間優は先端につけていたアタッチメントに付与されている魔法を発動


ロックガンタートルの頭頂部を覆うほどの魔法陣が展開され、そこにハンマーの先端が接触すると先程のロックガンタートルの咆哮とは比べ物にならないほどの轟音がボス部屋に響き渡る


魔法陣を介してハンマーの衝撃を頭頂部全体に受けたロックガンタートルは、頭を地面に叩きつけられ、上下による衝撃で口内で溜めていたブレスが暴発し、顔の大部分が消し飛んだ


その様子をハンマーのブースターを使って距離を取りながら着地し見ていた優は、舞い上がった沼を受けながら警戒を緩める事なく観察する


すると支える力を失ったロックガンタートルは地面に倒れ伏し、少し経つと霧となって霧散した


「討伐完了!やっぱりブレスは撃たれる前に潰すに限るよ。こっちも砲撃使ったら対抗はできるだろうけど、沼地になってたから結果的に今回はハンマーで良かったかも、さて反省終わり!メインイベントといきましょうか!」


優は霧散したロックガンタートルの中心に落ちている素材へと足を弾ませながら近づく。主がいなくなった事により状態がリセットされ沼地も元の地面へと戻っている


ボス部屋の状態がリセットされただけで優についた沼はそのままだがその事を全く気にせずドロップ品の物色し始める


「えぇとこれはロックガンタートルの鱗、うん!叩いてみても壊れないし変形もしない!これなら盾の素材としては十分!他は爪や牙…お!ミスリルインゴット!これがあるのとないのとじゃ魔力伝達効率が雲泥の差、私の武器制作の基盤にもなってるからあればあるだけいい!やっぱり鉱石を主食にしてるのか鉱石系のドロップ率が高いなぁ。と言ってもオリハルコンやミスリルはボス級じゃないと落ちないけど、それに量が足りないからこの部屋周回かなぁ…ん?何の音…」


ロックガンタートルとの戦闘中、離れて撮影していたドローンがこちらへ近づいていた事に気付いた優は、舞との探索中に我慢していた子供の様にはしゃいで素材を物色している姿を最低でも2人にはみられていた事実に直面し


「〜〜〜!!!??」


自分の体温が急激に上昇するのを感じながらドローンに背を向けて蹲る。暫くその体制で深呼吸をして何とか自身を落ち着かせると立ち上がって振り返りドローン越しに2人へ話し掛ける


「ど、どうだった?おじいちゃんにマーちゃん、いつも通りの素材集めだったけど退屈凌ぎにはなったかな?」


なんとかいつも通りに話すが何の反応も示さないドローンに耐えられなくなった優は、配信中にコメントを見る機能があるのを思い出す


バックから祖父にもらったメモを取り出しドローンからされるメニューを辿々しくも操作して、配信中のコメント欄を表示する


「よし!これなら2人の反応が見れる、それでどうだったか…な?」


そこには5桁を裕に超える同接数とその視聴者による滝のようなコメントで埋め尽くされていくコメント欄があった


「………え?」


2人しか見ていないと思っていた優の力の抜けた声は主のいなくなったボス部屋でやけに響いた

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