勘違われ魔王の覇道 〜転生してひたすら魔力を鍛えてきた俺、転生した魔王と勘違いした魔王の眷属たちに囲まれています〜
冷凍ピザ
第一章
第1話 魔力以外に娯楽が無いんですッ!
俺は魔法に憧れていた。
ライターが無くてもすぐに火が使えるし、喉が乾けば水を出してそれを飲めばいい。風を起こして落ち葉の掃除をしたり、電気を操れるなら電子機器の充電だってできるかもしれない。
そんな理想がきっとこの世界には広がっている。俺はまだ新たな生を授かって数ヶ月ながらそう確信していた。
そんな確信を持った理由はこれ、魔力だ。
自分の体の中に確かにエネルギーとして存在し、体外に排出すればそれは紫色の光を放ち、霧散していく。
これを魔力と言わずしてなんと言うか。前世で魔法や魔力について最初に言い出した人間は異世界からの帰還者なのではないかと思うほどに事実と合致している。
まだ体は赤ちゃんだから体はそこまで自由には動かせないけど、魔力の方は自由に動かすことができる。
もっと練習すればきっと自分の手足のように動かすことすら可能になるだろう。
まだこの世界の言語も全く分からないし、1日の大半を寝て過ごす赤ちゃんとしての生活はあまりにも退屈なので魔力というおもちゃが与えられていてよかった。
自分で自由に動けるようになるまでは魔力をひたすらいじっていよう。
***
魔力に触れ始めてどれくらいの期間がたっただろうか。俺はつかまり立ちを始めた。
そして、窓から見える景色で意識がはっきりして何日経ったか確認していたのはもう面倒になったからやめた。
経過日数のことを頭から追い出して魔力だけに集中するようになって気づいた。
魔力が体外へ出ると途端に霧散してしまうのは、魔力専用の血管のような器官から魔力が離れてしまうからだということに。
両親が道具を介して魔法を使っているのは見たことがあるけど、魔法の才能がない人間は道具を介してしか魔法を発動できないのか。
なら、俺も魔力を体外で操作することすらできない落ちこぼれなのか。
……いや、きっもまだ練習が足りないだけ。あんまり悪い方に考えないでおこう。精神衛生上、非常によろしくない。
***
できた。
魔力が自分の体外に出ても霧散することなく紫の光を放ち続けるその光景を見て俺は確かな手応えと達成感に包まれた。
この境地に至るまで魔力に触れてから4年の月日を費やした。
果てしなく長い道のりだった。たった4年といっても起きている時間の8割ほどを修行に当てたから体感時間ではもっと長く感じられた。
……ホントに娯楽が無さすぎんだよこの世界ッ!
4歳の体で精神年齢17歳が楽しめる娯楽を求める方がおかしいのかもしれないけど!
とはいえ、これでようやく魔法を使うスタートラインに立てたはず。
せっかく転生したのに魔法が使えない落ちこぼれとかじゃなくて良かった。
***
「シオン、今日も農作業の手伝いありがとな」
俺は一般的な農民の子、シオン・アルゴノートとして転生した。
順調に7歳まで成長し、この世界の言語にもかなり慣れてきた。
今の俺は日本語に加えてこの世界の言語まで使いこなせるバイリンガルだ。
まあ、もう使わない言語なんて覚えてたって何の意味もないけど。
「しかし、まだ教えてもないのに魔力での身体強化ができるなんて、俺たちは天才を生んじまったのかもな。ハッハッハ」
「たまたまできただけだよ。天才でもなんでもない」
魔力を全身に巡らせることによる身体強化は前世の創作物ですでに履修済み。
まさか本当にできるとは思ってなかったけど、何もないところでは制御の難易度が格段に跳ね上がる魔力を他の物体に流せるのか試した時にそれが可能なのだと知った。
魔力の流れたものは衝撃などの外部からの干渉に強くなる。つまり硬くなるということ。
ものによってその強化具合には微妙に振れ幅があるけど、その辺についてもこの先ちゃんと学びたいな。
「なあシオン、お前は魔法に興味あるか?」
「うん」
「ハハ、即答だな。このアルグレア王国の王都には世界有数の高度な魔法教育が受けられるガレアス魔法学院がある。本気で魔法を極めたいならそこを目指してみる物いいんじゃないか?」
「でも、それって学費とかはどうなるの?」
そういうところは大抵金持ちの貴族や魔法使いの名家の子が通うのが定石じゃないのだろうか。
「最近この国の魔法教育は急速に発達し、実力至上主義の面が強くなってきている。だから十分な実力さえ身につけておけば学費の免除なども受けられるんだぞ」
「へぇー」
身分差別とかやばそうなこの世界でそこまで考え方が進んでいるとは思わなかった。
この国では、ここ10年ほどでやたら強力な魔物の発見が増えている。その辺の事情も関係してるのかな。
いや、そんな事情は俺にとってどうでもいい。
農民の家庭出身の俺でも質の高い魔法教育を受けるチャンスがあるとわかった今、やるべきことは1つ。
とにかく鍛錬することだ。
娯楽が少ないとはつまり誘惑が少ないということ。心が移ろうことなく集中ができる環境は用意されている。
後は俺の努力次第か。
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