晩餐

 リリルの城に灯りがつき、まるで灯台の光のようにその存在が海の上に浮かんだ頃、城内の食堂にて長机に並べられるのは豪勢ながらも雅な盛り付けをされた料理の数々だ。


 見たこともない料理に目を輝かせるノヴァはふと隣のシェダが手を付けず、やや引きつった顔なのが気になり顔を覗き込む。


「シェダさん、食べないんですか?」


「いやそうじゃねぇんだけど……」


 苦笑気味に答えたシェダに向かって案ずるなと声を飛ばしてきたのはリリルだ。使用人に注がせたワインの入ったグラスを手にし、クスクスと不敵に笑いながら一段高い席から見下ろしていた。


「小童はわらわを打ち負かした、その強さを讃えての晩餐だ。それに少々手荒な事もしてしまったからな、その詫びもある」


(勝たせてもらったんだけどな……)


 理由を伝えてからワインを飲むリリルを横目で見ながらシェダは納得がまだいかず、だが好意は無碍にできないとも思ってようやく食事に手をつける。


 一つ一つの料理の出来栄えは素晴らしく、贅沢を極めたと言っていい。そうしたものを前にしては自然と作法を意識し、手付きも丁寧にされるというもの。

 だがその中で手付きが速く、次々と皿を空けては次の料理を食べ進める者が一人。エルクリッドである。


「んっ、んっ……はぁ〜、すごく美味しい〜。タラゼドさんの料理も美味しいけど、こういうものたまにはいいわ〜」


「そう言ってもらえると助かるぞエルクリッド。他の者達も見倣って食べ進めるが良い」


 頬をこぼし舌鼓を打ち続け歓喜に包まれながら食事をするエルクリッドにリリルは満足げであり、促される形でノヴァ達の食事も少し早まった。


 相変わらずエルクリッドの食事量は多いが、それは魔力の回復の為であるので納得はいく。しかし、ノヴァは何となくそれに違和感を覚えていた。

  

(エルクさん、今日はいつもより食べるなぁ……美味しいからかな?)


 今日は朝に拐われ、エルクリッドが魔力を使ったのは高等術の修行中のみ。確かにそれで意識を失う程に魔力を使ってこそいたが、客室についた時にはすぐに起きて平然としてたのでそこまでではなかったとわかる。


 となるとやはり彼女自身が単に大食いということかとノヴァは納得しつつ食べ進め、そんな様子をタラゼドが見守っていたとは気づかずにいた。



ーー


 胃腸を調えるという薬草が入ったハーブティーを飲みながら、エルクリッド達は食後のひと時を過ごす。

 落ち着いた空気が流れる中でさて、と、足を組みながらグラス片手にリリルがエルクリッド達に言葉を投げかける。


「食事も済んだことだ……どうだ、リスナーとしてわらわと戯れて見ぬか?」


「やります! てかあんな事とかされてされっぱなしとか嫌です!」


 元気よく即答するエルクリッドがやる気を見せて立ち上がり、リリルも不敵に微笑み席を立つ、と、何かに気づきリリルは目を細めながら動きを止め、その視線を追ったエルクリッドが振り返り席を立った人物を捉えた。


「なんじゃ、お前がやるのかクロス?」


「弟子の腕を見るならちょうどいいからな。ここは譲ってもらおうか」


 ぐっと黒の手袋をはめながら静かにリリルへ答えたのはクロスだった。エルクリッドは彼の言葉に目を大きくしつつも、素早くカード入れよりカードを抜いて裏側を見せるように前へと出す。


「やりましょう師匠! あたしが勝ったらなんかカードくださいよ!」


「勝てれば、な」


「なら俺も……っ……」


「シェダ、戦いを見る側でも学ぶ事はある」


 エルクリッドの気合いに応えるようにシェダも立ち上がるも、リリルとの戦いで受けた傷で言葉を詰まらせクロスも無理強いをしなかった。


 静かにクロスもカードをカード入れより引き抜いてエルクリッドと同じように裏を見せ、戦いの意思と成立がここに相成りリリルもよかろうと言って席を立つ。


「なれば城の裏にある舞台を使うがいい。円陣サークルがなければお前は城を壊しかねんからな……」


「……人を何だと思ってるんだお前は」


「天を掴み竜を従えし将の名を継ぐリスナー、というのは事実だろう? 久々にわらわもお前のカード捌きを見てみたいからの」


 舌打ちでリリルに返しながらクロスはエルクリッドに向けたカードをしまい、と、目をキラキラさせて見ているノヴァに気づきエルクリッドと共に一瞬竦んだ。


「ぼ、僕も見学してもいいですか?」


「あたしはいいけど……師匠は?」


「構わない。お前とアセスがどれだけ強くなったのか……見せてもらうぞ」


 再会から指導へ、指導から実戦へ。よしっと意気込むエルクリッドの気迫にクロスは冷静な態度を崩さないものの、彼をよく知るタラゼドはどことなく嬉しそうなのを感じ静かに微笑む。

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