師との再会ーPrologueー
再会
程よく身体が沈むベッドは心地よく、焚かれている香の匂いが疲れを癒やす空間でシェダは目覚めた。
ゆっくりと体を起こすとズキンと痛みはするが、きちんと手当されてるのもあってそこまで強くはない。
(勝った……いや、勝たせてもらったな……)
限界を超え満身創痍で無理を押して、しかしリリルがまだ何かをしようとしてたのは覚えているし見えていた。だが、彼女はカード入れにかけた指を引かずそのまま倒れる選択をした。
何故そうしたのかはわからない、彼女が自分を認めてくれたのは確かなのかもしれない。と、何か柔らかいものが頭に乗ってるのを感じ、それが何かわかった瞬間に顔を赤くし、クスクスと微笑むその人物を悟る。
「起きたようだの小童……やはり若いと逞しいということか、の?」
「お、おい……いや、あの! リリル! さん! ど、どいてくれるとたすかるんすけど……」
「楽な姿勢をしてるだけだ、何、男子というのはこういうのがいいのだろう? ふふふ」
いつの間にか背後に現れ、わざとらしく自身の胸をシェダに乗せるのはリリル・エリルだ。狼狽えて何も言えなくなり動けなくなるシェダへリリルが手を伸ばそうとした時、部屋の扉が開いてタラゼドが入ってくる。
「これはこれは……お邪魔でしたら外にいますよ」
「た、タラゼドさん! た、たしゅけてください!」
「あぁ外にいてくれるかの。これからこの男子と遊ぶからの」
リリルがからかってるのか本気なのかはわからないが、シェダは助けを求めタラゼドも少し困り果ててしまう。
と、タラゼドの後ろで誰かがため息をつき、相変わらずだなと言うとリリルの不敵な笑みが消えた。
「気に入った男なら見境ないのかよ」
「……誰かと思えばお前か」
落ち着いているその声にシェダは覚えがあった。リリルがゆっくり離れるのに合わせて這うようにベッドから飛び下り、そして、タラゼドの後ろから前へと部屋に入ってきたその人物を見上げ目を潤ませた。
「し、し、師匠……クロス師匠!!」
「しばらくだなシェダ」
短めの黒髪に鋭くも燃えるような情熱を秘めた赤の瞳を持つ男。シェダに安堵した様子を見せるのは、彼の師にして十二星召が一人クロス・セラフィ。
むっとした表情とリリルとクロスは顔を合わせ、だがすぐにリリルはベッドからクロスのすぐ後ろへと姿を現し、背中を合わせため息をつく。
「何のようだ、既に隠遁したと聞いたが……」
「ニアリット殿から弟子の話を聞いて顔を見に来ただけだ。長居するつもりはない」
「……まぁ良い、師との再会というのを邪魔するつもりはない。
あぁとクロスが答えるよりも先にリリルは煙のように姿を消し、跪いてわなわなと身体を震わせ涙するシェダを見てクロスはため息をついた。
「お前、泣くなよ」
「うっ、うっ……だ、だって師匠を前に情けない姿を……」
「わかったからもう泣くな。それと、お前の妹弟子……って言うとあいつは怒るだろうが、エルクリッドもいるんだろ?」
ーー
タラゼドに呼ばれたエルクリッド達が隣の部屋に訪れ、そこで師クロスと対面したエルクリッドは目を大きくして停止すると次の瞬間に目から大粒の涙をこぼす。
「し、ししょ〜! むぐっ!?」
「お前も泣くな気持ち悪い。ったく……変わりないようで何よりだ」
近づこうとしたエルクリッドの顔を手で押さえたクロスは呆れつつもその表情は穏やかで、それを見ているノヴァは目を輝かせていた。
(この方が十二星召のクロスさん……天竜将の名を継ぐ凄腕のリスナー……!)
タラゼドがかつて共に旅をした凄腕のリスナーの事は、何度も話してもらっている。クロス・セラフィ、エルクリッドとシェダの師にして十二星召の一人と会えた事は、ノヴァの心が喜びに満ちる程だ。
そんなクロスはノヴァに気づいて目を向けると目の高さを合わせるようにしゃがみ、丁寧な対応にはノヴァもしおらしくぺこりと頭を下げはにかむ。
「はじめまして、だな。オレはクロス・セラフィ……君は?」
「ノヴァ・トーランスと言います。えと……十二星召の方と、エルクさんやシェダさんのお師匠様のお話はタラゼドさんからよく聞いています」
少し緊張気味なノヴァが差し出す手を優しく掴んで握手を交わし、それから立ち上がりクロスと顔を合わせるのはリオだ。
接点がない二人に思えたが、一礼をしたリオが何かを決意したように口を開く。
「お久しぶりです、クロス殿。ルイ様はお元気ですか?」
「え? リオさん師匠と知り合いなの?」
意外な言葉にすぐにエルクリッドが反応し、それに対しあぁと答えたリオがその理由と共にある事実を明かす。
「クロス殿の妻ルイ・セラフィ様は私の先輩にあたるお方……アンディーナ騎士団の団長を務めていたお方なんだ」
「それじゃあリオさんって……」
「……アンディーナ騎士団の一人だ。黙っていてすまなかった」
師との再会から繋がるものがリオの素性へと繋がる。水の国アンディーナが誇る騎士団の一人、そしてクロスの妻ルイがその元団長と聞いて、エルクリッドは修行時代にて何となくそんな雰囲気があったなと思い返す。
とはいえ今はまず聞かねばならない事がある。それを訊ねたのは、クロスをよく知るタラゼドだった。
「何故こちらに? ニアリット様から話を伺ったと言ってましたね?」
「火の国のあいつから預かった酒を届けた時にな。まさかシェダもいたとはな……」
「それで、顔を見に来ただけ、ではないのでしょう? あなたの事です、何かを伝える為に来たのでは?」
一瞬クロスの目が鋭くタラゼドを捉えたが、すぐにそれは消えてその通りだと答えるとエルクリッドとシェダを視界に入れながら、クロスは堂々たる態度である事を伝える。
「エルクリッドはニアリット殿と、シェダはリリルと戦い抜いた……なら、今のお前達に相応しい術を教えようと思ってな」
「師匠それって……」
察しがついたシェダに頷いて答えたクロスはついて来いと弟子二人を誘い、その後をノヴァ達も追う形で師と弟子の再会から始まる伝授を見守る事となるのだった。
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