星彩の召喚札師Ⅱ
くいんもわ
目指すものーLoadー
朝日
日が昇れば空と大地が照らし出され色鮮やかな姿を見せる。色彩豊かになると共に生命は目覚め、世界というものに動きをもたらし新たなる色を作り出す。
太陽が空の青さをより鮮明にするその時、よく通る快活な声が朝を告げるかのよう。
「赤き一条の光、灯火となりて明日を照らせ! 今日もよろしく、ヒレイ!」
晴天に向かって掲げられしカードが赤の光を放ち、放たれた光が炎となり空を赤に彩る偉大なる火竜を呼び起こす。
雄々しき火竜ファイアードレイク、ヒレイと呼ばれたかの存在は炎を口に燻ぶらせ、ちらりと傍らに立つ彼女に目を配る。
「この程度の相手に俺を呼ぶのか」
「そう言わないでよ。これも修行だからね」
ヒレイに快活に答える彼女の赤の目が捉える先に相対するは筋骨隆々の巨大な雄牛。巨大な岩を思わせる体躯に大槍を思わせる捻れた太い角、鼻息を荒くし右前足で何度も地面をかく動作は威嚇を示すものだ。
炎を広げたような紋様広がる翼を開くヒレイの方が二回りほど大きいものの雄牛に怯む様子はない。
一触即発の緊張が高まる中、ややヒレイが頭を低くしたと同時に雄牛が力強く地を蹴って突進を仕掛ける。
素早くヒレイは反応し片手で頭を掴み抑えるが、ぐぐっと後ろに押されそれにはヒレイの足下にいる彼女も目を大きくした。
「すっごい力……油断したら危ないかもね」
眼前に猛牛がいるというのに彼女は決して怯える事もなく、何処か余裕ありげに微笑みを見せながら腰のベルトに差す箱状のものよりカードを引き抜き意識を集中する。
それに合わせる形でヒレイは雄牛をぐんっと前へと軽く放り投げ、彼女が向けたカードが光を放った。
「スペル発動アースバインドッ!」
カードより放たれた緑の光が地面へ降り注ぎ、やがてビシビシと音を立てつつ亀裂を起こしながら何かが雄牛へと向かう。
雄牛が再び走りださんとすると共に地を砕き生える木の根が雄牛を拘束、力で引き千切られてもすぐに別の根が襲いかかる事で身動きを封じ込めた。
「ヒレイ、あとはよろしく!」
快活なる声に青の瞳を光らせたヒレイが口内に炎を燻ぶらせ、勢い良く雄牛目掛け紅蓮の炎を吹き付ける。
一瞬にして雄牛とその周囲は火の海とし全てを焼き尽くすも、炎の中で雄牛の影が倒れるまではヒレイも彼女も目を逸らさなかった。
やがて炎が弱まった時に全身を焼かれた雄牛が重々しい音と共に膝をつき、ふーっと彼女は息を吐いて肩の力を抜く。
「お疲れ様ヒレイ」
「この程度は仕事の内にも入らないな……早く戻せエルク」
「うん、ありがと」
ヒレイの姿が煙のように消え、パシッと落ちてきたカードを手にとって素早く腰のカード入れへと彼女はカードをしまった。
魔物や精霊と心を通わせ、カードに宿りし力を使う存在リスナー。エタリラの世界においてはごく当たり前の存在、能力者達だ。
彼女もまたその一人、ゆっくりと焼け尽くされた雄牛に近づいて手をかざすとドロンと雄牛が消え、焼け焦げた地面に残るのは緑色の札のようなもの。
「緑かぁ……えーとこれで何枚だっけ?」
(九枚ですよエルクリッド。他の色は赤と青が五、黄色が七です)
「うー……まぁ仕方ないかー……」
エルクことエルクリッドの心に語りかけるは彼女の契約したアセスと呼ばれる存在達。ヒレイとは異なるアセスの言葉を受けて札を拾いつつうーんとエルクリッドは唸り始め、だがすぐにまぁいいやと気持ちを切り替え朝日に身体を照らす。
彼女がいるのは地の国南部に広がるアチパルカ自然公園内の草原地帯。多くの動植物が生きるこの地にて、現在彼女は修業を行っていた。
(シェダとリオさんは今頃何してるんだろ……ノヴァはちゃんとタラゼドさんの言う事聞いてるのかな?)
静かに吹く風に身を委ねながら空を見上げ思うのは共に旅する仲間達の存在だ。今は修業の事もあって別行動であるが、知り合って間もないながらも小さな絆をエルクリッドは感じていた。
ーー強くなる為にできる事をしなければいけない。
一人旅をしていて一人は慣れたと思っていても、ほんの少しの寂しさが不安へと手招きしている。
だがそんな気持ちに優しく手を振って断るようにエルクリッドは深呼吸、頭につけたゴーグルの位置をしっかり直し地平線を見つめた。
「皆も頑張ってるはず、あたしも恥ずかしくないよう頑張って修業を終えて、強くなるんだ!」
眩しい笑顔と言葉で己を鼓舞するように、あるいは同じ空を見上げている仲間達に伝えるように、エルクリッドのよく通る声が草原に響く。
全ては強くなる為。その先にある目的を果たす為、自分の為、誰かの為、若きリスナーは心を燃やす。
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