異世界転生した俺のニーハイ愛がヤバすぎて美少女たちがドン引きしている件
暁ノ鳥
第1話
「――で、俺は死んだ、と」
真っ白だ。右も左も、上も下も。
どこまで行っても継ぎ目のない純白の空間が広がっている。
まるで巨大な豆腐の中にでも迷い込んだみたいだ。
まあ、死んだ直後の感想としては、あまりにも気の抜けたものかもしれないが。
俺、絶対寺領也(ぜったいじりょうや)、享年二十歳。
しがない大学二年生だった俺の人生は、交差点に猛スピードで突っ込んできたトラックによって、あっけなく幕を閉じた。
最後の記憶は、宙を舞う自分の身体と、アスファルトに叩きつけられる衝撃。
うん、間違いなく即死コースだ。
目の前には、簡素な、しかし神々しいまでの威厳を放つデスクと椅子。そしてそこに座る一人の女性。
「……うわ」
思わず声が漏れる。なんだこの美しさ。
透き通るような銀の髪は星屑を溶かしたようにキラキラと輝き、紫水晶を嵌め込んだかのような瞳が、静かに俺を見つめている。
服装は、古代ギリシャの神殿に飾られていそうな、ゆったりとした純白のドレス。
完璧な造形美。CGか?
いや、それにしては生命感に溢れすぎている。
彼女がゆっくりと唇を開いた。
その声は、まるで銀の鈴を転がしたように心地よく響く。
「お疲れ様でした、絶対寺領也さん。わたくしは天界にて転生を管理する女神、ルミナスと申します。あなたの現世での生涯を審査した結果……」
「待った!」
俺は女神の言葉を遮って、身を乗り出していた。
自分でも驚くほど切羽詰まった声が出た。
「待ってください、女神様! いや、その、転生とかそういう話は後でいいんです! それよりもっと重要なことが!」
「は、はい?」
突然の大声に、女神ルミナスの完璧な表情がわずかに揺らぐ。
その美しい紫の瞳が、困惑の色を浮かべて俺を捉えた。
「重要なこと、ですか? あなたの魂の行く先よりも?」
「もちろんです! 俺の部屋のコレクションはどうなるんですか!? クローゼットの奥、特製の防湿ケースに入れて保管してあった、俺のニーハイソックスコレクションが!」
「…………え?」
女神が固まった。ぽかんと口を半開きにし、その紫水晶の瞳がぱちくりと瞬きを繰り返す。
彼女の思考が完全に停止しているのが、手に取るように分かった。
「こ、コレクション……ですか?」
「そうです! 珠玉のコレクションですよ! デニール数ごとに分類し、メーカーと製造年、素材の配合率まで記録した俺の至宝! 毎晩、あの艶やかな黒、蠱惑的な白、可憐なボーダー柄を眺めながら、その先に広がる無限の可能性に想いを馳せるのが、俺の唯一の生きがいだったんです! 絶対領域の神聖さにその身を委ねる、あの至福の時間が……! あれがないと俺は……俺は生きていけません! 死んでるけど!」
我ながら何を言っているんだとは思う。
だが、この情熱だけは嘘偽りない俺の本心だ。
トラックに轢かれる瞬間、脳裏をよぎったのは家族の顔でも友人の顔でもない。
我が子のように愛でてきたニーハイソックスたちの、気高くも美しいその姿だったのだから。
女神ルミナスの眉が、ぴくりと動く。
その表情に、先ほどまでの神々しさはなく、代わりに何か得体の知れないものを見るような、そんな警戒の色が浮かんでいた。
「……あの、よろしければもう少し詳しく。その……ぜったいりょういき、とは?」
「よくぞ聞いてくれました、女神様!」
俺は待ってましたとばかりに、デスクに手をついて熱弁を開始する。
「絶対領域とは! ミニスカート、あるいはショートパンツの裾から覗く太ももと、ニーハイソックスの履き口との間に存在する、あの肌が露出した神聖なる空間のことです! あれは単なる隙間じゃない! 男の夢とロマン、そして無限の官能性が詰まった奇跡の空間なんです!」
「か、官能性……」
「そうです! 想像してみてください! すらりと伸びた少女の脚が、黒いニーハイソックスに包まれている。その布地は太ももの柔らかな肉に食い込み、抗いがたい魅力を放つ! そしてその上には、わずか数センチ、神だけが創造を許したもうたかのような聖域……絶対領域が広がっている! あの隙間を見つめているだけで、俺の心臓は歓喜のビートを刻み、脳内麻薬がドバドバと……! ましてや、それを履いているのが可憐な美少女だと想像した日にはもう……っ!」
「あ、あの……もう、そのへんで……」
女神の顔が引きつっている。
完璧だったはずの表情筋が、明らかに拒絶反応を示して痙攣していた。
だが、一度点火した俺の情熱は誰にも止められない。
「いいえ、まだです! 特に至高とされるのが、デニール数20の黒ニーハイ! あの、肌が絶妙に透けるシアー感! 光の当たり方によって、黒の中にかすかに肌色が浮かび上がるあのグラデーション! あれを履いた美少女の、すべすべで温かいであろう太ももに……この手で、そっと触れることができたなら……! 俺はきっと、その瞬間に意識を失い、幸福のままに昇天してしまうでしょう!」
「…………」
女神ルミナスは、完全に沈黙した。
その紫の瞳から光が消え、まるで道端の石ころでも見るかのような、感情の欠落した目つきで俺を見ている。
ドン引き、という言葉はこの瞬間のためにあるのだと、俺は確信した。
体感時間にして約十分。
俺が己のニーハイ愛と絶対領域の素晴らしさについて、あらゆる角度から語り尽くした後、重苦しい沈黙が純白の空間を支配した。
やがて、女神が恐る恐る、といった様子で口を開いた。
その声は先ほどまでの凛とした響きを失い、どこか疲れ切っている。
「え、えーっと……よく、わかりました。あなたのその……『愛』が、非常に……個性的で、その……情熱的であることは、はい」
言葉を選んでいる。ものすごく選んでいる。
「つきましては、あなたの第二の人生について、特別な計らいをさせていただこうかと……」
「特別な計らい?」
「はい。その……あなたのその異常なまでの『愛』を評価し、異世界で役立つ力として授与させていただこうかと。例えば……その、ニーハイソックスを自在に創造する能力とか」
「なっ!?」
俺は耳を疑った。なんだって?
ニーハイソックスを、創造?
女神は続ける。その目は、早くこの話を決着させて、目の前の変人から解放されたい、という強い意志に満ちている。
「さらに……その、ぜったい、りょういき? でしたか。そこから、戦闘などで必要になる便利な道具を取り出すことができる、という能力も……お付けします」
「ほ、本当ですか女神様!?」
俺は身を乗り出して大きく叫んだ。
「そんな夢のような能力を!? それなら……それなら異世界で、俺は……俺は、美少女たちの絶対領域を、心ゆくまで堪能できるっていうことじゃないですか!」
「堪能って……そういう目的での使用は想定していませんが……まあ、結果的に世界のためになるのであれば、動機は問いません……」
女神の目が泳いでいる。
もう限界らしかった。彼女は疲れたようにため息をつくと、何かを諦めたようにパチンと指を鳴らした。
「では、絶対寺領也さん。あなたの新たな人生に、幸多からんことを。……頑張って、くださいね……どうか、常識の範囲内で……」
最後のほうはほとんど囁き声だった。
そして、俺の足元に眩い光の魔法陣が展開される。
「あ、女神様! 一つ言い忘れました! 俺はニーハイだけじゃなく、サイハイソックスもオーバーニーもリスペクトして――」
「はい、もう結構です! 行ってらっしゃい!」
俺の言葉は、女神の悲鳴にも似た声にかき消された。
視界が真っ白な光に包まれていく。
遠ざかる意識の中、女神が力なく呟くのが聞こえた気がした。
「はぁ……また変な人が来ちゃった……最近、こういうのばっかり……」
そして、俺の意識は完全に途切れた。
◇
「……ん」
まぶたを開くと、視界に飛び込んできたのは、どこまでも突き抜けるような青い空だった。
頬を撫でる風は、都会の排気ガスとは違う、青々とした草の匂いを運んでくる。
ゆっくりと体を起こす。どうやら俺は、見渡す限りの広大な草原の真ん中に寝転がっていたらしい。
遠くには、おとぎ話に出てくるような城壁に囲まれた街が見える。
「ここが……異世界か」
生命の実感。死んだはずの自分が、こうして五体満足で存在している。
風の音、草の匂い、肌を照らす太陽の暖かさ。
その全てが、俺が新たな生を得たことを告げていた。
普通なら、ここで第二の人生への希望に胸を膨らませたり、あるいは途方に暮れたりするのかもしれない。
だが、俺の思考は違った。
俺はゆっくりと立ち上がると、自分の手を見つめる。
そして、ニヤリと、我ながら最高に邪悪で変態的な笑みを浮かべた。
「ふ、ふへへ……ふへへへへ……!」
そうだ、あの女神が言っていた。
俺に与えられた、唯一無二のスペシャルな能力。
「『絶対創造(アブソリュート・クリエイション)』……!」
俺がそう呟き、強く念じると、掌に淡い光が集まり、形を成していく。
そして光が収まった時、そこには一本の……いや、一対の、完璧な黒いニーハイソックスが鎮座していた。
程よい厚みがありながら、滑らかな光沢を放っている。
履き口のゴムの部分もしっかりとしていて、これなら美少女の柔らかな太ももに、心地よく、そして官能的に食い込んでくれるに違いない。
「素晴らしい……! 本当に、創造できてしまった……!」
そして、もう一つの能力。『絶対領域ゲート』。これは、パートナーとなる美少女がいないと試せない。
俺は創造したばかりのニーハイソックスをうっとりと眺め、そして遠くの街へと視線を移した。
「待っていろよ、異世界の美少女たち! そして、君たちの太ももが織りなす、まだ見ぬ神聖なる絶対領域よ! この俺が、その素晴らしさを余すところなく堪能し、そして世界に知らしめてやる!」
高らかな(そして傍から聞けば通報不可避な)宣言と共に、俺の異世界ライフは、今、幕を開けたのだった。
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