第17話  修平と吉野家に行く

春樹が今池を流していると修平から電話が入る。

「春樹、今、大丈夫か、悪いけど、スナック茜まで迎えに来てくれるか」


「いいけど、ママ なんだって!」

どうやら、修平があかねに話を聞いてきてくれたらしい。

「吉野家でも行ってから話すわ」

春樹は修平を乗せると古出来町にある吉野家に行った。


「ママに話を聞いたけどな~ママ、すごく反省をしていたぞ!『全部、私がれいちゃんにやらせた』って・・・・・あやまっていた。香奈ちゃんも智ちゃんも急にコロナになって、そんな時に限って店が忙しくなったからって、れいちゃんの事を考えもしないで安易に手伝ってくれって頼んだらしい!」


「だからって仕事中の玲香を呼ぶか?」

 春樹が顔をしかめた。

「その辺の所もしっかり釘を刺しておいたんだがな、誤るばっかりで・・・・・春樹にはしっかり誤ってくれってよ、れいちゃんは悪くないんだって、『私がやらせた』って反省していた。店は今日から派遣が来るから大丈夫らしいわ」


「春樹、れいちゃんに連絡とってみたか」


「どうしようかって思っている!だって、普通、玲香から連絡をしてくるもんだろ」


「お前も強情だな、ほんとうに・・・・・だったら、私が話を聞いてこようか!

『本当にお尻さわらせたのか』って・・・・・」

 修平が言いながら笑っている。


「わかったよ、もう、あいつ 仕事しているのかな」


「電話してみろよ」

修平がけしかける。仕方なく春樹は玲香に電話をした。


「ハルキ、待ってたよ!よかった!ごめんね、本当にごめんなさい」


スマホはスピーカー状態でテーブルに置いている。春樹は牛丼を食べながら玲香と話をした。その玲香の声を耳にすると、また春樹は腹が立ってきた。


「ごめんねって、じゃぁ、なんで、連絡してこないんだよ、ごめんって謝るんなら、普通、玲香から電話をしてくるもんだろが!」

 それを聞いている修平が両手で『おさえておさえて』と言っている。


「だって、私から電話をしても、どうせ出てくれないか、出てくれてもすごい剣幕で怒るでしょ。だから、ハルキの気が鎮まるまで待つのがいいのかなって思ってたよ。ごめんなさい。申しわけありません。許してください。お願いします」


「もう、ふざけやがって・・・・・」

 腹が立つが、玲香のその言い方が心を癒す。


「ハルキ ねぇ、私、今日、会社、休んじゃった、そしたら電話してくれるかなって思っていたのに、ちっとも連絡くれないんだもん、だから、ハルキ、す~ごく怒っていると思ってたよ」

 なんだか玲香のペースにハマっている。


「そんな事、知らん!俺はいつもより1時間早く出たから・・・・・」


「あ、そうだったんだ、ねぇ、ハルキ、今からご飯食べに連れて行ってよ」


「今、修平と吉野家で牛丼食べている」


「修平さんもいるんだ、修平さん、ごめんなさい!聞こえてる?」


「ぁぁ、聞こえているよ、そうか、れいちゃん、仕事を休んだのか」


「だって、私、ハルキに嫌われたらどうしようと思って・・・・・昨日から何も食べていないし、もう、死んじゃおうかって思ったんだから・・・・・」


「おい、おい、そんな物騒な事するなよ、頼むぞ」

修平が玲香を宥めている。すると、

「死んじゃえばよかったのに・・・・・」

春樹が口を出す。

「いいよ、死んでも・・・・・でも、死ぬ時はハルキも一緒だよ」


「アホ、言うな!なんで俺まで一緒に死なな、あかんのだ?」


「あれ、死ぬまで一緒、死んでも一緒って言ってたじゃない」


「そんな事、言った覚えはない!」


「あれ、私の家に初めてきた夜、言ってくれたの、嘘だったの」


「あほか、こんな所でそんな話をするな」


「こんな所って??吉野家??じゃぁ、どんな所で言えばいい!あ”わかった!今夜、布団の中で・・・・・」

「もう、いいわ」

修平が二人の会話を聞きながら、両手で口を押えてゲラゲラ笑っていた。

「ねぇ、ハルキ、私も牛丼を食べたい。買って来てよ」


「アホか!今、仕事中だ」


「あれ、ハルキは仕事中に牛丼を食べてるんだ!私、昨日から何も食べていないのに、食べられなかったら死んじゃうよ」


「うっせぇわ、持って行きゃいいんだろ、まったく」


「ありがとう、あのね、牛プルコギ丼とイモサラダ、お・ね・が・い・待っているから」


春樹は結局、その日は玲香に振り回され、まともに売り上げも出来なかった。仕事を終えて家に戻ると、春樹は至れり尽くせりの夜をむかえた。

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