『彼の隣!!』

志乃原七海

第1話『彼しか見えない!』

サイドバイサイド(仮)


私は、遠藤なるみ。


この街に数あるレストランのうちの一つで、週末だけアルバイトをしている。大学の授業が終わった後、制服に着替え、慣れた手つきでテキパキと仕事をこなす時間は、私にとって少しだけ大人になったような気分になれる瞬間だ。


でも、そんな私の日常をひっくり返す存在が、このレストランにはいる。


一つ年上の、バイト先の先輩。名前は、そう、遠藤(えんどう)先輩。名字が同じなのは、偶然だけど、なんだかそれだけで特別に感じてしまう。


先輩は、本当に絵に描いたような「かっこいい」先輩だ。背が高く、すらりとした体型。いつも清潔感のある髪型で、笑うと目尻にできるシワがまた素敵で。注文を取りにくるお客様に丁寧に対応する姿、忙しい時にテキパキと仕事を片付ける姿、どれも私にとっては息をのむほど眩しく映る。


私は、そんな先輩を、いつも遠くから見つめているだけだ。


食器を運ぶふりをして、先輩の姿を探す。お客様から注文を聞いている先輩に、そっと視線を送る。先輩が仲間と楽しそうに話しているのを見かけると、胸が締め付けられるような、甘酸っぱいような、形容しがたい感情がこみ上げてくる。


先輩に話しかけたい。いや、話しかけたいなんてレベルじゃない。もっと、近くで話したい。先輩の好きなものとか、休みの日は何をしているのかとか、そういうことを聞きたい。でも、いざ先輩が目の前に現れると、私は完全に我を忘れてしまうのだ。


「なるみ!なるみー!」


ハッと我に返ったのは、バイト仲間のちはやの声だった。


「あ、ごめん、ちはや。なんだったっけ?」


「だから、お客様が呼んでるよ!ぼーっとしてたらダメだって!」


ちはやは、私と同じ大学に通う友人で、いつも私の様子を面白そうに、でも優しく見守ってくれている。私が先輩に夢中なことを、一番よく知っている人物だろう。


「あー、ごめんごめん!」


再び先輩から視線をそらし、私はバタバタとお客様の方へと向かう。先輩の顔を見て、またぼーっとしてしまわないように、必死で意識を仕事に戻そうとする。


でも、それでも、ふとした瞬間に先輩の方へ、私の視線は吸い寄せられてしまうのだ。この胸の高鳴りを、誰にも知られずに、ただひたすらに、先輩を見つめることしかできない私。


この気持ち、いつになったら先輩に届くんだろう。いや、そもそも届くことなんてあるのだろうか。


私は、今日もまた、遠藤先輩を遠くから見つめるだけの、小さな秘密を抱えながら、バイトを続ける。

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