第4話:「部活勧誘地獄」

「一年生対象・戦闘系部活オーディション。通称スカウト演習、開催日のお知らせ」


朝の校内放送が流れた瞬間、廊下に殺気が走った。

廊下の角という角から、色とりどりのジャージ姿が飛び出す。


「おい、アイツ一年の13番だ!」

「“ZERO-13”だぞ!早い者勝ちだ!!」


「……こえーよ」


工口杉田は、自販機で缶コーヒーを買おうとしていた。

が、突進してきた勧誘集団に囲まれ、缶を開ける前に連行されていた。


 

「うちの《武術研究会》は実戦で使える打撃系がメインでさ〜! 杉田くんなら即エースだよ!」


「いえ、《能力干渉部》こそ正統派! 君のような物理特化型は分析対象として——」


「違う、違う、うちは《対外戦術連隊部》! 実戦派! 最前線派! むしろ部活じゃないけど来い!」


——叫び声、熱意、戦術理論。


もはや体育館裏は戦場だった。


「ねえ杉田くん、どんな戦術傾向? 自己紹介カード書いてくれる?」


「なんで就職説明会みたいなノリなんだよ……」


スーツ姿のような制服を着た女子生徒が、ずずいと顔を寄せてきた。


「ごめん、まず自己紹介遅れた。外戦部部長・早乙女ミユキ。二年。能力は《肉体倍化》。筋肉です」


「筋肉です、って何」


「ぶっちゃけ君、最高の素材だと思うのよ。“能力ゼロ”でここまで戦えるなんて、前例ない。組織的にも研究的にも戦力的にも萌える!!」


「最後なんかおかしかったよね?」


「今なら《筋トレ朝練》無料体験付き!」


「帰るわ」


杉田がそっとその場を離れようとすると、後ろから声が飛んだ。


「というかさあ、入部しない理由ある? 正直に言って」


「あるよ。“戦いたくない”っていう致命的なやつがな」


 


観戦席のこはるは、眺めている

一連の騒動を、少し離れた階段上から見ていた春野こはるは、軽く笑っていた。


「モテてるね、エロくん」


「モテっていうか、狩られてるっていうか」


「筋肉の人、ちょっと怖かった?」


「全力で怖かったよ。あと肉体倍化って……あれ能力者としてどうなん?」


「“限界超えたパワー”ってことで、歴代の外戦部長は大体全員腕が二本増えてる」


「増えてるのかよ」


杉田は頭を抱えた。


「やれやれ……。なんで“能力ない奴”がこんなに注目されてんだよ」


こはるは真面目な声で答える。


「——能力が“ないから”、だよ。異能社会で“無能力”が最強になるなんて、普通じゃ考えられない。……それだけで、“存在そのもの”が騒ぎになる」


「……面倒な世界だな」


 

「次のカードは特別枠! “能力無所属枠”からのエントリー!!」


「……誰がエントリーしたよ」


放送の内容に眉をひそめる杉田の隣で、ミユキが片手を挙げて笑っていた。


「代理エントリーです!」


「勝手に何やってくれてんだ!!」


だがもう止まらない。


「対戦相手は、三年・異能特化部物質制圧班所属——土橋カイ!!」


ステージに現れたのは、200cm近い巨体の男子。

腕には鉄のアームギア。

能力は【圧縮崩壊】——触れた対象を内側から潰す異能。


「……俺、さっきまで静かにコーヒー飲んでたのに」


「構えた瞬間に終わるぞ。死ぬなよ?」


土橋の嘲笑。能力起動。空気が歪み、床が低くうねる。


——しかし、その1秒後。


杉田は一歩踏み込んでいた。


「……うるせえ」


ドンッ!!!!


一撃。

拳が胸に届いた瞬間、土橋の巨体は浮き、後方の壁まで吹き飛んだ。


静寂。

数秒後、ようやく観客席からどよめきが起こる。


「またワンパン……!」

「えっぐ……生身だぞ今の……!」


 


試合後の控室。

杉田は汗ひとつかかずに制服の袖を戻していた。


「なんでこうなるんだ……」


そこへ、こはるが入ってくる。


「お疲れ。」


「疲れた。」


「……本当に優しいんだね。だって、さっきも怪我はほとんど負わせてなかった」


「まあな」


杉田は深く息をついて、再び缶コーヒーを手に取る。


「はぁ……ほんと、部活勧誘地獄だよ」


「なにそれ」


こはるは笑った。

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