第6話 気安さが呼ぶ油断
「さてと。何から話せば良いものやら」
思案げにそう言ったオーサは、踏み固められた道を歩き出した。
てっきり椅子に座りがてら、尋問よろしく質問攻めを受けると思っていたロゼットは、肩透かしを食らった気持ちで横を歩き出す。
「あの、どこへ向かわれるんですか?」
「それは……と、その前に一つ良いか?」
「はい、なんでしょう?」
「そなた、話し方を改める気はないか?」
「へ?」
唐突な提案に立ち止まれば、振り返ったオーサは不満そうな顔をしていた。
「私は長と呼ばれる立場ではあるが、敬称などを用いられる相手ではない」
「ですが」
「ガイと話していた時のように話せ。名もオーサで良い」
「ええっ!?」
距離を詰めるような内容にオーサ自身の見慣れない美貌も相まって、ロゼットの顔が熱を帯び始めたなら、
「皆にもそう申しておるというのに誰もそうせぬのだ。私だけ除け者ぞ? 敬うのであれば、少しぐらい従えば良いものを」
(……そう言えばメイさんも、「オーサさん」と呼んであげてって言ってたっけ)
彼らには彼らの理由があるのかもしれないが、オーサは納得していないようだ。
毒気を抜かれたように引いた熱も手伝って、少しだけ微笑ましく感じる。
「では……オーサ、でいいかしら?」
「ああ。今後はそれで頼む」
不意に、オーサ自身は話し方を変えないのか、という疑問が生じたが、元々の出自を考えれば難しいのだろうと思い直す。
(それとも、変えてみた結果が今なのかも。時々言い直しをしているものね)
及んだ理解に知らずロゼットの足が軽くなる。
昼を過ぎた日差しは暖かく、そよぐ風は柔らかい。
(これで仕事が決まれば言うことなしなんだけど。でも、その前に――)
「……あれ?」
オーサの言う「踏み込んだ話」を思い出し、緩んだ気を引き締めるように振り向いたなら、思ったより遠くにオーサの姿が在る。
同世代に比べて、そこまで歩くのが速い訳でもないロゼットは、戻る必要もない一本道の上で立ち止まり、到着を待つ。
(…………………………もしかして、オーサって足の遅い人?)
というより、歩行に限らずオーサの動作は全てが緩慢だったと気づいたなら、ようやく横に並ぶかというところで黒いローブが立ち止まった。
金と銀、どちらつかずの髪と目が日の光に煌めくのを、何気なく眺めていれば、
「時に、そなたの目にこの里はどう映る?」
先ほどのまでのやり取りにはない硬質の声。
続く問いかけは。
「どう感じるものなのだ?――魔女の眷属にとっては」
「!」
予期せぬ言葉にロゼットの目が大きく見開かれた。
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