第17話 それぞれの楽しみ方
四人がスターバックスでの温かい時間を終えた後、ふらりと足を運んだのは、ショッピングモールの一角にあるゲームセンターだった。色とりどりのネオン、電子音と笑い声が響く空間に入った瞬間、非日常な雰囲気が彼らのテンションをふわりと持ち上げた。
「うわ、ここすごい……」 影二は入口で足を止め、まぶしいライトに目を細める。その背中を押すように、華澄が一歩前に出て言った。
「影二くんは、こういう場所よく来るの?どんなゲームやるの?」
その問いに影二は、少しだけ恥ずかしそうに頭をかきながら答えた。
「前は格ゲーとかアクションばかりやってたんだけど……最近は反応鈍くて。だから、もっぱらコイン落としばっかり。」
「えーっ、なんか影二っぽいかも!」
蘭がすぐさま笑いながら反応する。「じーっと盤面見つめながら、どこに落とすか悩んでそう。わかるわ〜。」
「騒がしいタイプじゃないし、静かに集中できるゲームが合ってるのね」
楓も楽しげに微笑む。
「地味だけど、ハマると面白いよ。……気づいたら時間が過ぎてるくらい。」
影二は少し肩をすくめるように言ったが、その言葉の端々には、意外と楽しんでいる様子がにじんでいた。
三人はそんな影二を微笑ましく見つめながら、それぞれやりたいゲームを見つけて散っていった。
華澄が向かったのは、色鮮やかなリズムゲームの筐体。ピアノの鍵盤を模したボタンを、流れるノーツに合わせてテンポ良く叩いていく。彼女の動きはスムーズで軽やか。音楽に溶け込むような華澄の姿に、画面の前には自然と人だかりができていた。
「うわ、すごい……!」 蘭が思わず声を漏らす。「私、始まって三秒でミスりそう。」
「指がちゃんと覚えてるのよ。リズム感も必要だけど、慣れが大事なの。」 華澄は淡々と答えながら、流れるように演奏を続けた。
蘭が挑戦したのは、フロアタイプのダンスゲーム。大きなモニターに合わせてステップを踏み、軽快に足を動かす姿はまるでパフォーマンスのようだった。
「見て見て〜!完璧でしょ、このステップ!」 蘭は笑いながら動き続け、アップテンポな曲に合わせて見事なリズムを刻んでいた。
「運動部の人って、体幹がしっかりしてるのよね……蘭の動き、バランス感覚良いもの。」 楓がそう評したのは、どこか本気の観察眼だった。
その楓自身はというと、無骨な銃型コントローラーを握ってガンシューティングに挑戦していた。照準をぶらさず、無駄のない動きで次々と敵を仕留めていく様子は、まるでスナイパーのようだった。
「え、楓さん……それ、初めてじゃないよね?」 影二が驚いて声をかけると、楓はほんのり笑みを浮かべながら、銃口を下げずに答えた。
「兄がFPSオタクだったの。小さい頃からよく付き合わされてたから、こういうのは慣れてるのよ。」
「なんか、めっちゃかっこいい……」 影二は思わず感心し、でもそれ以上に、自分の出る幕ではないと察してそっとその場を離れた。
彼が向かったのは、やはりコイン落としのコーナーだった。そっとコインを投入口に添え、タイミングを見計らいながら、丁寧に一枚ずつコインを投下する。プッシャーの動き、重なり合うコイン、角度をじっと観察してからの一投——その集中力たるや、別の意味でゲーム上手といえるレベルだった。
「まじで黙々とやってるし……」 蘭が後ろから覗き込み、苦笑しながら言うと、
「なんか、職人みたいね。」
と華澄が笑った。
「こういう静かなゲーム、落ち着くから……地味だけど、奥が深いんだよ。」
影二は手を止めずにそう答えると、コインが一枚、大きく落ちた音が響いた。
「おおっ!落ちた!すごいじゃん、影二!」
蘭がパチパチと拍手を送ると、影二は恥ずかしそうに苦笑しながらも、どこか嬉しそうだった。
「集中力と戦略の勝利ね。」
楓が冗談めかして言うと、影二は「……それほどでも」と照れ隠しのように呟いた。
ゲームセンターの賑やかさの中、四人はそれぞれの得意分野で輝いていた。お互いの新たな一面を知りながら、笑い合い、驚き合い、自然と距離が縮まっていく。
特別なイベントも、大げさな演出もなかったが、どこか心に残る——そんな、かけがえのない時間が、そこで静かに育っていた。影二はふと、手元のコインを見つめながら思った。
「こんな日が、また来るといいな。」——そう心の中で呟きながら。
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