第4話

佐野志保、そして鈴木美保との未来についての対話を終え、俺はそれぞれのヒロインが抱える思いの深さに圧倒されていた。志保の独占欲と友情の葛藤、美保のキャリアと依存。二人の真剣な言葉は、俺の「宿題」の重みを改めて突きつけてきた。そんな中、菊池緑から、二人きりで話したいという誘いがあった。場所は、彼女が普段アルバイトをしている動物園の近くの公園。以前の、男性が苦手で目を合わせることもできなかった緑が、今、どんな将来のビジョンを描いているのか。そして、俺に何を求めるのか。俺は、彼女の純粋な愛情に応えたいという思いを抱きながら、公園へと向かった。


公園に着くと、緑はベンチに座って、少し緊張した面持ちで俺を待っていた。今日の彼女は、可愛らしい花柄のブラウスに、ゆったりとしたロングスカートという、彼女らしい優しい雰囲気の服装だった。髪は、いつものように一つにまとめられているが、サイドに編み込まれた部分が、俺とのショッピングで選んだヘアピンで飾られている。


「本田くん、今日は、ありがとうございます……」


緑は、少しだけ俯きながら、しかし以前よりもずっとはっきりとした声で言った。


「あの……私、まだ、将来のこと、全然、決まってなくて……。何がしたいのか、よく分からなくて……」


彼女は、少し不安そうに、膝の上で指先をきゅっと握りしめた。その言葉は、俺たちが学食で話した時と同じだった。


「でもね、本田くん」


緑は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳は、俺をまっすぐに見つめている。そこには、以前のような男性への恐怖心は、もうどこにもなかった。


「本田くんと、出会って……私、すごく、変わったの。男性が苦手だったのに、本田くんと話せるようになって、一緒に遊べるようになって……それで、その、身体も……」


彼女は、少し照れたように言葉を詰まらせたが、その頬は、幸福感に染まっているようだった。俺との関係を通じて、彼女がどれほど自信を得て、成長したかを、その表情が物語っていた。


「本田くんは、私にとって、大切な『安全基地』なの……。だから、本田くんとの関係が、もし、なくなっちゃったら……私、また、一人に、なっちゃうんじゃないかって……」


緑の声は、微かに震え、その言葉には、俺への深い依存と、この関係を失うことへの強い不安がにじみ出ていた。俺は、彼女の純粋な愛情と、その言葉の重みに、胸が締め付けられた。


「私、まだ、結婚とか、子供のこととか、よく分からないんですけど……でも、本田くんとなら、きっと、幸せになれるって、そう思うんです……」


緑は、結婚や妊娠といった女性特有のライフイベントについて、漠然とした不安と、同時に、忠勝との関係の中でそれを実現したいという、素直な希望を語った。彼女の言葉は、俺の心を強く揺さぶる。純粋な彼女の未来が、俺の選択にかかっている。その重圧を改めて感じた。


緑は、俺の優柔不断な心を、まっすぐに突き刺すような、純粋な眼差しで問いかけてきた。


「本田くんは、どんな『答え』を出すんですか? もし、私が本田くんの『一番』じゃなくても……それでも、私、本田くんのこと、ずっと、好きでいるから……」


彼女の言葉には、他のヒロインたちとは異なる、無条件の愛情と、俺の選択を尊重しようとする健気さが込められている。同時に、俺に選ばれ続けるために頑張るという、彼女なりの努力の表明も含まれていた。それは、俺の優柔不断な性格に対し、最も純粋な形で「選択」を委ねるものであり、俺の心に深い責任感と愛情を呼び起こした。


俺は、緑の純粋な愛情と、彼女が抱える将来への不安、そして俺への無条件の信頼に触れ、強い感動を覚えた。佐野や美保との関係で、俺は自分自身の欲望や選択を模索してきた。しかし、緑との対話を通じて、「守るべきもの」の存在を強く認識した。彼女の純粋な未来を、決して壊してはならないという決意が、俺の中で固まった。


緑の存在が、俺が最終的な「答え」を導き出す上で、最も大きな「愛」の根源となる。彼女の純粋さが、俺の優柔不断を克服する原動力になると、俺は確信した。

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