真理子様は、サルベージを辞められない。

愛加 あかり

アジャラカモクレン異世界転生テケレッツノパ

 真理子は、お昼休みに息を引き取った。


 お昼休みに入り。社長は、部屋の電気を消して、食事をしに出かけた。

 私は、パソコンに向かい、黙々と仕事をこなしていたのだが。

 脳の血管が詰まり、右手が不自由になったかと思うと、ホコリまみれのキーボードに 顔から倒れ込んでいる。


 それでも、残りの7人の社員は、何事も無かったかのように、パソコンに向かっている。

 私が、死んだ事に気付いたのは、お昼から帰ってきた社長だった。


「真理子ちゃんは、何をサボっているのかな。始業時間だぞ」


 ボサボサで、束ねただけの髪の毛を引っ張って、顔を持ち上げた。

 普通なら、髪の毛を引っ張られた時点で、起きるが。


 私は、無反応で。社長の逆鱗に触れた。

 そのまま、起き上がった頭を、もう一度、キーボードに落とした。


『グァシャン』


 それでも起きない私に、顔を真っ赤にして怒り。

 次に、私の椅子を引っ張り。私の体は、椅子に引っ張られて、机からズレ落ち。

 机の下に、体ごと倒れた。


 社長は、驚いたが。

 カルト集団のように働かされていた社員は、動揺もせず、パソコンに向かっている。


「誰か、真理子ちゃんを、喫煙室に連れてって」


 私の体は、2人の男性社員に運ばれて。非常階段の踊り場に、捨てられた。

 その行動を見ていた、他の会社の社員が、警察と消防へ連絡を入れて、事件化された。


 会社は、倒産して。社長は、5年の刑が決まり。

 3人が、精神科に通い。

 3人が、入院。1人が、精神崩壊した。


 残った会社のお金5000万は、入院費に当てられ。私にいくら支払われるのか、気にしていると。


 目の前に、小さな黒い点が現れ。

 黒い点は、私だけを吸い込むように渦を巻き。

 私の魂は、反物のように伸びて。逃れる事も出来ずに、この世と、別れを告げた。


 真っ白い部屋で目覚めた私は、金縛りに遭っていて、首から下が動かない。

 目の前に、白壁は存在するのだが、距離がつかめず。足元も浮遊していて、落ち着かない時間が長々と続いた。


「すまん、すまん。会長の開会式の挨拶が長くて、少し遅れたかな」


 背中の方から、若い声が聞こえた。

 私は、できる限り首を振り。真っ白いローブを着た子どもを、見ることが出来た。


「時間が無いので、質問は無しだ」

 少年は、私の口を右手で塞ぎ。


「これから、異世界へ行き。バトルロワイヤルに、参加してもらう」


 唐突に、変な話が始まった。これは、駄目なヤツだ。逆ハーレムでも、悪役令嬢でも、恋愛シミュレーションゲームの主人公ですら無い。

 バトルロワイヤルものだ。

 間違ったら、モブより弱いぞ。


「その点は抜かり無い、安心して良いぞ。それに、最強種の一角だ。クラゲになって貰うのだが。バトルロワイヤルと、言っても。逃げるが勝ちだ。3000年ほど、逃げ回って欲しい。文明を、無理に発展させる事も無いし。人と接触して、トラブルを起こすと、噂が広がり、敵に見つかる可能性が出てくるから、大人しくしててくれ」


 私の体が透け始めて、心臓が鼓動する度に、体が点滅し。点滅は、加速し続ける。


 「時間のようだ。くれぐれも、戦いは避けてくれ。分かったな」


 話が、全然入って来ない。クラゲ、文明、バトルロワイヤル。逃げ回っていれば、良い事だけ理解できた。


 真っ白い壁が、赤黒く染まり始め。後ろにいた少年が、枕元に現れ。足元に有った重力が、背中に感じて、髪の毛が後ろに垂れ下がった。


 少年は、骸骨へと変わり。白いローブは、黒いボロボロの服へと変貌を遂げた。

 デスサイズと言う名の大鎌は、目の前で回転をしながら浮遊している。

 死神は、両手を合わせて。


「アジャラカモクレン、異世界転生、テケレッツノパ」


 私は、クシャミをしなかった。



 目が覚めると、水中にいた。

 私は、水面に出ようと、手足を動かした。


 私の手足は無くなり、触手の腕が無数に生えている。

 太い触手が4本有り。先に毒針が付いている。

 残りの触手は、太い触手よりも短く。無数に生えている。

 動きは、とてもゆっくりで。泳ぎと言うよりも、漂っている感じだ。

 

 狩りをして、魚を捕食するでは無く。

 待ち伏せをして、餌を待つ感じだったが。


 夜になると、鼓動と同時に体の一部がランダムで光る。

 それを餌だと思い、雑魚に襲われた。

 雑魚しか襲って来なかったが。夜の私は、気が気でなく。落ち着かなかった。


 主に食したのは、小さなイカだった。プランクトンも、良く食べた。雑魚も、たまに食べた。


 食べれば食べ付ほどに、能力に直結したが。良く分からない能力ばかりだった。


 イカからは、『水圧推進』を手に入れたが。頭が大きすぎて、あまり、進んだ気にはならない。漂うよりは、マシだった。口も、クチバシ状になり、硬い雑魚の骨も、食い千切った。


 プランクトンの中に、哺乳類の稚魚が混ざっていたのか。水深能力を、得たのだが。クラゲのままだと、水深できない。水圧に潰されてしまう。


 それと、潮吹きを手に入れてしまった。

 未使用で、今後も使う予定はない。



 私は、死神の忠告を守り、水中で日々を過ごした。夜になると、怯えて暮らしたが。

 何度かの、嵐に襲われ。季節が巡り。

 三年の月日が流れた。



 私は、ウツボか、ヘビの類に襲われた。


 それほど大きくはないが。胴体は太く、長い触手ほどの長さを有した。


 私は、逃げる為に、何度も水圧推進を使ったが。直ぐに追いつかれた。

 逃げて逃げて、自分のテリトリーを離れて。目印にしていた小島が、見当たらなくなっている。


 だが、ウツボの執着は止まらず。何度も追撃をしてくるのだが、ウツボの方が体力的に、ダメージを受けているようだった。


 ウツボが、海上で浮遊を始めた。


 益々、理解ができない。異世界だからなのか。

 今度は、尖ったモノを、投げてよこした。


 当たると、ダメージになり。薄い皮膚に、小さな傷を受けたが、直ぐに再生した。

 だけど、痛いのには、代わりはない。


 避けるように、深く潜った。ソレは、長距離に向いてないのか。深く潜ると、威力がなくなり。水の壁で、かき消されているのか。何を飛ばしているのかさえ、理解できていなかった。


「白旗を振ろうにも、旗もなければ、理解もされないだろう。このまま、ここにいたら、帰ってくれるかな」


 一番不思議だったのは、攻撃が止むと。

 ウツボは、海面に浮いていた。


 他のイカと同じように、ウツボの皮膚が紫色に変色して、毒に侵されているようだった。


 私は、ウツボを倒して。ソレを食した。


 私の頭の中に、電子機械的なポップな音が流れた。

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