第20話  私はアレンの……

「ふっ… …見事だ」

 サラマンダーは切られた腹を擦りながら笑みを浮かべる。深く刻まれた傷はみるみるうちに元に戻っていく。エリーは四大精霊に一太刀浴びせる事ができた余韻に浸る間もなくアレンの元に駆け寄る。サラマンダーに受けた傷からは大量に血 が流れている。明らかに深手であるのは分かる。しかし……

「よかったな、エリー。これで任務達成だ」

 まるで傷を気にすることなく、右手で左肩を押さえながらエリーに微笑む。

「よかったな、じゃないわよ! 早く血を止めないと」

 そう言って、エリーは自分のスカートを破りその布でアレンの傷 を押さえる。短くなったスカートから白く美しい太ももが露わになるが気にするそぶりはなく必死に血を止めようとしている。

「これくらいの傷大丈夫だよ。それに……」

 アレンはディーネに目配せすると、無限袋から小瓶を取り出しアレンに向けて投げた。アレンは右手を伸ばして小瓶を掴むと、瓶の蓋を口を使って抜き、中の液体を傷にそのままぶっかける。すると血は止まり、みるみるうちに傷が塞がっていく。

「それはもしかしてユグドラの……」

 エリーはその液体の効果の高さに伝説級アイテムの名を口にしようとしたが、

「あーこれはポーションのLvⅧだよ。ユグドラの雫はさっき使ってしまったし、こんな傷でそれはもったいないだろう」

「ポーションLvⅧ ……それでも最高級品だわ。それにユグドラの雫をさっき使った?」

 LvⅧ。ユグドラの雫に比べればさすがに効果は下がるが、ほと んどの傷はこの液体で治ってしまう。もちろん高級品であり、希少価値も高い。数千万、店によっては億単位の値段をつける所もある だろう。

 それにエリーにはアレンがユグドラの雫を使ったと聞こえた。自分と合流してから使った記憶はない、もしかしてと思った矢先サラ マンダーが口を開く。

「おい、用がすんだらさっさとディーネを置いて帰れ」

「何を言っているの? 消すわよ」

 ディーネは冷たく鋭い目つきをサラマンダーに向ける。サラマンダーは慌てて、その目から逸らし、エリーを見る。

「なるほど……あの女に似ているな。グランシーヌの犬になったわけではないということか」

 三人には聞こえないような小さな声で呟く。

「何言っているか全然聞こえない。私達は忙しいの。もう帰るわよ」

「ちっ……俺は諦めないからな。幸い俺達精霊には時間だけはたっぷりある」

 そう言い残して、サラマンダーは小さくなった背中を見せながら穴の奥に戻っていった。

「よし、帰ろうか」

 アレンが二人に向けて声をかけるとエリーとディーネは晴れやかな顔で頷いた。三人で来た道をなぞりながら帰る。すでに外は暗くなっている。ランプを灯しながら夜の森を歩いているが行きとは違い平穏が続く。

「これがサラマンダーの鱗ねぇ。思ったより熱くないのね。本当に大丈夫かしら」

 エリーは報酬として受け取った鱗をまじまじと観察している。

「それは私が表面上だけ冷やしましたから。ちゃんと効果はあるはずですよ」

 ディーネは片目をつぶって、親指を立ててドヤ顔を見せている。その姿にディーネが四大精霊のウンディーネだということを忘れてしまいそうになる。

「ディーネ、あなた本当に四大精霊なの?」

「そうですよ? アレンがさっき言ったじゃないですか」

 何をいまさらというようにキョトンとした目でエリーを見ている。

「そうなんだけど、この状況が信じられなくて……というか何で四 大精霊が店の店員なんかやっているのよ」

 ディーネはう〜んと人差し指を口に当てて考える素振りを見せ、

「奴隷だから? それは店番だけでなく夜の営みも」

 そこまで言いかけた時アレンが軽く頭を叩く。

「何が奴隷だ! 何が夜の営みだ!」

 アレンは顔を赤くしながら、ディーネを叱る。

「だって似たようなものじゃないですか!」

「全然似ていない!」

 二人の言い合いに呆れるようにエリーが割り込む。

「結局どういった関係なのよ」

「ディーネは俺の眷属っていったらいいのかな。あぁ、グレイグが グリズリーを手なずけてテイムしていただろう。あれと似たような ものだよ。ただ俺の場合は精霊を召喚する召喚術士ってとこかな」

「ちょっとアレン! あんな獣と一緒にしないでくれますか! 温厚な私でもさすがに怒りますよ! こんな美人で若い女を捕まえて 失礼すぎます」

「温厚ねぇ……若いねぇ……何かあったら直ぐに水をぶっかけるくせに。それに一体何年生きているんだか」

「なるほど、分かりました。アレンは汗をかいたからシャワーが浴びたいんですね」

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