第8話 不信感

「先生、早く河野さんを…」

「うわぁ!!」

 Bが散乱して、カッターナイフを振り回しながら近づいて来る。

「B!止まれ!」

 学校内で一番ガタイのいい先生がタックルで止めに入る。

「うお、マジか、落ち着け!B」

「(一人じゃ押さえきれて無い?なんかのリミッターが外れたか)」

「誰か、取り押さえるのを手伝ってくれ!」

 そうしてBは男数人がかりで連れ出されて行った。

「チッ、クソが結構深いな、血が止まらない」

 傷口を押さえるが、ゆっくりと血が地面に滴る。アドレナリンが出ていたからか痛みは不思議と無かったが、徐々に刺すような痛みに襲われて来た。

「九条くん、何があったのかな?とりあえず、親御さんに連絡するね」

「(普通、先に九条の心配をするのか?それに、九条の親への連絡が先だと、それ以前にやる事があるだろうが)」

「Aくん、立てますか?」

「ええ、なんとか」

 先生がAの体を支え、部屋から出て行った。


 すると、入れ違いで中に教頭先生が入って来た。

「九条くん、親御さんへの連絡は済んだから、ちょっとそこに座ってくれるかな?城守くんも、止血してあげるから腕を見せて」

 ポケットから包帯を取り出し、きつく締め、傷口全体を覆う。

「(この傷で応急処置だけって、明らかにおかしいだろ、普通は病院に直行だろ。それに…)」

 河野さんの方に目をやると、まだそこに座り込んでいる。その時、また頭に血が上るのを感じた。

「おい、教頭」

ガシッ

 胸ぐらを掴み睨みつける。

「なんで河野さんを放置する?まるで都合の悪い存在のように扱いやがって。俺の傷はどうでもいい、それより彼女の安全を先に保証してくれ、そうじゃないと…」

 目の色が変わった。

「暴れるぞ、最近覚醒したばかりの能力だ、制御できる保証は無いぞ」

「わ、分かった、だから落ち着いて」

 手を離して、教頭の耳元で囁く。

「相手が有名政治家でも、この学校なら人一人ぐらい囲えるだろ?何か後ろめたい事があるんだろ、今からでも正しい選択をして下さい」

「………」

 教頭先生が何も言わず、まっすぐの目を見る。

トントンッ

 その時、誰かが部屋の扉をノックした。

「教頭先生、九条先生方がいらっしゃいました」

「分かった…」












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