I-2.きみと踊りたいのさ⑤
二回戦は、静かに始まった。
ヨッカに仇を仮託した私は最初から緊張していたが、試合開始の直前、会場全体が緊張で声を失った。その場にいた五〇〇〇人全員の視線が、リングの上のテネスに釘付けだった。
「あんた、その脚……」
「動きにくいから、ごめんなさい。ルール的には問題ないって、うちのボスが言ってたから」
テネスはヨッカの目の前で、自分の右足を取り外して、リングの外の仲間に投げ渡した。
ヨッカから確認の目配せを受けたシャーマは、黙って肯いた。
「確認も取れたことだし、始めよ」
テネスは体勢を低くして、左足を後ろに伸ばし、両手を床につけたサソリのような姿勢をとった。
一方のヨッカはルーティンの跳躍もせず、テネスに釘付けになっていた。
CGG ヨッカ(四年目) 対 摩天 テネス(二年目)
「ヒリつけェ! ファイッ!」
音楽と共に、ヨッカもテネスもリズムを刻む。ただし、テネスのリズムは両手で床を何度も叩く、好戦さが前面に出されたスタイルだった。
会場の手拍子は完全にテネスのリズムだった。
ヨッカは完全にリズムを奪われ、後退りした。
その隙をテネスは逃さない。両手をバネにして、ヨッカの足下に急接近。左足を大きく前に回して、ヨッカの足を掬いにいく。当たればヒッティングで一発負けだが、冷静さを欠いているヨッカは反射的に跳び上がり、身体の自由を奪われた。
「ヨッカ……」
ナナナが思わず呟く。
テネスはヨッカが狼狽えているうちに左足一本で立ち上がり、裏拳、正面突き、跳び蹴りを絡めた舞で更にヨッカを翻弄していく。ヨッカはもはやテネスに踊らされるマリオネットだ。
左足を軸に、身体を最大限捻ったテネスの右回し蹴りが最後の一撃となった。
無いはずのテネスの右足が気迫をもってヨッカの脳裏を掠め、尻餅をつかせてK.O.。
突如現れた片脚の武闘少女は、誰も見たことがない戦闘スタイルで華々しい初陣を飾った。
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