第10話「動く大地の脈動」

カーン、カーン、カーン──


 敵襲を知らせる鐘の音が、濃い土煙の中を切り裂いて響いた。


 「行くぞ、リティア!」


 「当然!」


 土煙を突き抜けるように、ダランとリティアは砦の正面門へ飛び込んだ。

 砕けた土壁の中で、待ち構えていた魔族兵たちが咆哮を上げる。


 だが、その咆哮が終わるより先に、剣閃が走った。


斬撃獅牙裂!」


 ダランの斬撃が魔族兵をまとめて吹き飛ばし、その隙を縫うように、リティアの聖光が駆け抜ける。


光爆ルミナス・インパクト!」


 まばゆい閃光とともに、砦の内部が揺れ、爆煙が天井まで立ち昇る。


 砦の外。まだ突入していない王国軍の兵士たちは、その爆音と絶叫を聞いて立ち尽くしていた。

 中で何が起きているのか、想像もできない。だが、あまりに鮮烈すぎるその戦闘の気配に、誰も動けずにいた。


「……なにをしている!突入準備!」


 我に返った部隊長が大声を張り上げた。


「リティア様とダラン様が前線を切り開いてくださっている!我らが続かずして、どうする!」


 その声に、兵士たちが奮い立つ。

 剣を抜き、盾を構え、ついに砦への突撃が始まった。


♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 砦内部では、ダランが一騎当千の勢いで斬り進み、リティアがその後方を守るように魔法を放つ。


 切りかかる魔族兵。吹き飛ばされる肉体。

 その一体一体が、確かに強敵ではあった──しかし、今の二人には通じない。


 後方から雄叫びと行軍の音が聞こえてくる。


 「来たか……!」


 後方に兵士たちの姿が見えたとき、ダランは一瞬だけ顔をほころばせた。


「無理はするなよ。戦うのは我らが主軸だ!」


 その言葉に兵士たちは頷き、各々が自分の持ち場へと散っていく。


 その瞬間だった。


 大地が鳴動した。


「ッ……!?」


 地面が激しく揺れ、石畳が隆起する。ひび割れた地面の隙間から、岩がせり上がり、空気が重くなった。


 「出るぞ……!」


 ダランが剣を構え直す。


 ズズン、と重い音を立てて砦の奥から現れたのは、巨体に岩鎧をまとった魔族──

 六将の一人、大地の《テラモン》だった。


 全身が黒鉛と鉱石で構成されているような異形。

 その身体の中心部からは、灼熱の熱がほのかに立ち上り、眼は深紅に光っていた。


 「我が地を踏み荒らす者どもよ……愚かなる哀れな者よ……」


 声は低く、そして地面の底から響くような音だった。


 その瞬間、テラモンの足元から大地が破裂した。

 巨大な岩柱が兵士たちを襲い、数人が巻き込まれて吹き飛ばされた。


「くっ……!兵士たちが……!」


 リティアがすぐに魔法陣を展開し、回復魔法ヒールレインを詠唱。

 宙から降り注ぐ癒しの光が兵士たちの傷を瞬時に癒していく。


 「立って! 今は倒れてる場合じゃないわよ!」


 傷が癒えた兵士たちが再び立ち上がり、魔族兵と交戦を始めた。

 その様子は、まるで“不死者”のようだった。

 あまりの異常な光景に、魔族兵たちは恐怖に震え、後退を始める。


 テラモンが、のそりと動いた。


 そして、ダランの前に立ちはだかる。


 「貴様か……この地を乱す騎士とは……」


 「名乗るまでもないがな、覇剣の騎士、ダランよ。さあ、一騎討ちと参ろうか」


 剣と大地がぶつかるその瞬間、戦いの火蓋が切って落とされた──!




大地が唸りを上げる。

 剣と拳が交差し、火花と震動が砦の中心を揺らした。


 テラモンの攻撃は一撃一撃が重い。

 地を踏み締めるたび、床石が砕け、周囲の壁が軋む。


 「はああッ!」


 ダランは剣を振るい、連撃で圧を打ち消す。

 だが相手は六将。その硬質な岩肌は尋常ではない耐久を誇った。


「ふん、さすがは六将……まるで城壁と戦ってる気分だ!」


「騎士よ。貴様の刃が、我が核に届くことなど──永久にない!」


 テラモンが咆哮とともに拳を振り下ろす。

 それと同時に、地中から鉱石が隆起し、ダランの足元を襲った。


「……くっ!」


 飛び退いたダランの背後で、大地が弾け、炎が噴き出す。


「マグマ……!?」


 テラモンが手を地面に置く。

 その瞬間、地下の龍脈が操られ、真紅のマグマが地表を割って現れた。


 空が赤く染まる。砦の屋根が崩れ、黒煙が舞う。


「なによこれ……環境破壊にもほどがあるわ!」


 リティアが叫び、兵士たちを守るように展開魔法を張る。


防御結界セラフィックシールド!」


 透明な結界が張り巡らされ、炎と破片を防ぐ。


「退がって!こっちに来ないで!」


 砦内に残っていた魔族兵たちも、次々と崩れた足場に飲み込まれ落ちていく。

 その光景は、まるで地獄の釜の蓋が開いたようだった。


 しかし──ダランの背は、微動だにしない。


「……なるほど、やはり面白い。強いな、貴様」


 そう言って、ダランはゆっくりと構えを取った。

 その顔には、恐怖はない。あるのはただ、静かな闘志。


 「我が奥義──見せてやろう」


 剣を真横に構えると、周囲の空気が震えた。


 「秘奥義覇剣・天穿斬


 線──。


 空気が裂け、音が消える。


 その瞬間、テラモンの巨体が斜めに断ち割られた。

 ゆっくりと、信じられないというように目を見開きながら、岩の巨体が崩れ落ちていく。


「我が……大地が……」


 最後に呟いたその声は、熱と共に消えていった。


 轟音のあと、静寂が戻る。


 地鳴りは止まり、裂けた地面がゆっくりと沈静化していく。

 雲間から差し込んだ陽光が、荒れ果てた砦跡を照らした。


 「……終わった、の?」


 兵士の一人が呟く。


 リティアは結界を解除し、息を整えながら頷いた。


「うん……ダランが、勝ったのよ」


 崩れた瓦礫の間に、剣を杖代わりにして立つダランの姿があった。

 彼は小さく笑い、そして肩で息をしながら──いつものように、顎髭を撫でていた。


「やれやれ、歳には勝てん。だが、まだまだ現役だな」



♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 数時間後──


 村に戻ったダランたち一行は、盛大に迎えられた。


 砦を襲った魔族軍の壊滅と、六将テラモンの討伐は、村にとってまさに“奇跡”だった。


 広場では即席の宴が始まり、子どもたちが兵士に花を渡し、老人たちは手を合わせて涙を流す。


「ありがたや……ありがたや……!」


「ダラン様!リティア様!ばんざーい!!」


 そんな中、宿屋の二階から、湯上がりのリティアがバスタオル姿で顔を覗かせた。


「お風呂……最高だったわ……♡」


 その隣では、ダランがふかふかのベッドに沈み込んでいた。


「ふぉぉ……腰が天に昇る……」


 二人の英雄の小さな幸せは、静かな夕陽に包まれていた。


 かくして、大地の《テラモン》は敗れ去った。

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仲間の最強魔法使いに全部持ってかれた勇者だけど、主役の座はまだ諦めてない! 富樫モブ @MobT

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