第1章

第1話「出番の無い者たち」

 最近、なんか――空気なんだよな、ボクたち。


 神に選ばれて、国王様に任命されて、「君こそが世界を救う勇者だ!」なんて明言されたり。

 聖女、騎士、魔工技師、魔法使い。仲間たちも全員一線級。

 パーティーの顔ぶれだけ見れば、文句なし。いや、むしろ豪華すぎる。


 聖女のリティアは、回復魔法の腕前は一級品で、傷痕ひとつ残さない。

 優雅で気品があり、そして超がつくほどの美人。……ただし、言葉はちょっと鋭め。


 覇剣の騎士ダランは、歴戦の猛者。

 豪傑でぶっきらぼうだけど、剣の実力は本物で、どんな敵にも一歩も引かない頼もしさがある。


 魔工技師のルーシーは、明るくて人懐っこい天才肌。

 魔道具を自在に扱い、面倒なことも「任せて~!」と笑って引き受けてくれる。


 そして、魔導士アルベルト。

 王立魔法研究院の元主席で、魔術理論は桁違い。

 でも本人はその経歴に無頓着で、完璧すぎてどこか人間味に欠けている。

 

 個性溢れるメンバーだが実力は確かで、この人たちとなら魔王を必ず倒せると確信していた…。


 なのに、どうにもこうにも……ボクたちが、空気になっている気がしてならない。



「森の奥から魔獣が四体、こっちに向かってくるよ~!」


 ルーシーが通信魔導球を片手に、ひらひらと手を振る。

 その手元の球は青く光り、敵の位置をマッピングしていた。


「リティアは回復魔法の準備を頼む!」

「了解。任せて!」

「ダランさんは側面から強襲を!」

「任された」

「ルーシーは魔導具を使用し、敵の退路を遮断」

「かしこまり~!……ヨル兄とアルベルトのお仕事は?」


 盾を突き出し、腰の聖剣を構える。


「ボクは中央から敵を抑える! アルベルトさん! 援護魔法の……ん? あれれ?」


 アルベルトは既に上級魔法の詠唱を済ませ、放つ瞬間だった。


 ははは、またですか……。



 戦闘が終わって、焚き火を囲んだ夜。

 焚き火の火花が、パチパチと音を立てて弾けていた。


 ルーシーが手のひらで芋をこすりながら、にやっと笑う。


「ヨル兄、今日のスキル:芋むき+5ですね~!」


「そんなスキル、誰が覚えたいんだよ」


「えっ? このサイズの芋を、あのスピードで? それもう勇者じゃなくて芋仙人だよ?」


「……否定しきれないのが悔しい」


 その会話に、リティアがうっすら笑みを浮かべていた。

 ダランは腕を組んだまま黙っている。アルベルトは隣で静かに本を読んでいた。


 ボクの視線に気づいたのか、アルベルトがぼそりと言った。


「……ヨルト君は、任された役割をよくこなしていると思いますよ」


「フォローっぽく聞こえて、実は何もフォローしてないやつだよね、それ」



 “あの日”以来、空気が変わった。


 魔王軍の幹部、〈攻防のガガンダ〉を、一撃で蒸発させたアルベルト。

 あのとき、リティアが呟いた――


「……あいつ、一人でいいじゃん」


 あの言葉を、誰もが“聞かなかったこと”にした。

 けれど、ボクたちは皆、分かっていた。


 アルベルトの力は規格外で、現実的で、冷たくて……圧倒的だった。


 そして、その事実は、ボクらの“誇り”とか“信頼”とか、そういうものを少しずつ削っていった。



「ヨルト君、少し話せますか?」


 食後、アルベルトが静かに声をかけてきた。


「ん? どうかしたの?」


「――最近、皆さんの様子が変ですね。ここは勇者であるあなたの出番だと思われます」


 アルベルトの声は落ち着いていて、抑揚がない。

 無自覚とは恐ろしい。そして、勇者の見せ場を奪っておきながら妙な見せ場を用意してくるとは。


「君がリーダーです。君が空気を変えれば、パーティー全体も明るくなります」


「……ははは、厳しいな」


 元凶が何か言ってんだ。


「事実です。勇者とは、皆を導きまとめる存在です」


 そう言って、彼はまた本に目を落とした。


 たぶん、あれは……アルベルトなりの“叱咤”だったんだと思う。



 その夜、焚き火を囲む空気は、なんとなく重かった。


 リティアは黙って火を見つめ、ダランは薪をいじっている。


 アルベルトは周辺の調査のため席を外していた。


 ルーシーだけが、いつもの調子で軽く話し始める。


「……ねぇ、正直さ。アルベルトって、強すぎない?」


 沈黙が落ちた。


 普段なら冗談に聞こえるその一言が、今夜はどこか現実味を帯びていた。


「ヨル兄はどう思ってるの?」


 いつもより少しだけ真面目な声で、ルーシーが訊いた。


 ――どう思ってるか。


「……確かに、強すぎる。でも、アイツがいなかったら、〈攻防のガガンダ〉との戦闘で誰かを失っていたかもしれない」


 リティアが会話に割って入ってきた。


「確かにガガンダは恐ろしい存在だったわ。でも、今のあたしたちって……戦ってるっていうより、観戦してるって感じじゃない?」


「……それでも、信じたいんだ。アイツと一緒に、みんなと一緒に戦いたいって」


 言ったあとで、少しだけ恥ずかしくなった。

 でも、ルーシーは「うん」とだけ笑った。


 リティアが、火を見ながらぽつりと呟いた。


「……理想主義者ね。でも、あなたらしいわ」


 その声は、少しだけ優しくて――少しだけ冷たかった。



 そして翌日。

 朝食の準備中、ダランが言った。


「……アルベルトを、試してみるというのはどうだ?」


 言葉に込められた意図が、分からなかったわけじゃない。

 でも、それを口にした瞬間、空気が確かに――変わった。






***


初投稿です。ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

完走を目指しますので、どうか温かく見守ってください。


「いいね」や「お気に入り」をいただけると、大きな励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る