「展望台」

志乃原七海

第1話「あれ?きみも?」

展望台


都会のビルが見下ろせる高台。まるで宝石箱をひっくり返したかのように、無数の灯りがきらめいていた。眼下に広がる光の海は、あまりにも眩しく、そしてあまりにも広大だった。


私は、失恋したばかりだった。胸の中はぽっかりと穴が開いたように空虚で、この宝石箱のような夜景も、今の私には慰めにならなかった。風が吹き抜け、なびく髪を抑えながら、私は静かに呟いた。


「きれいだね…でも、虚しいだけだ」


夜景に背を向け、立ち尽くす私の傍らに、ふと、もう一人、同じように一人で佇む男性が現れた。彼は、私と同じように遠くの灯りを眺めているようだった。


「あれ?」


無意識に、私は彼の方に目を向けた。彼は気づいたのか、私の方に顔を向けた。そして、目が合った。ほんの一瞬、気まずいような、でもどこか不思議な空気が流れた。


彼が小さく頷くような仕草をした。私も、それに答えるように、小さく会釈をした。


「あ?どうも!」


彼が、少し戸惑いながらも、そう声をかけてきた。彼の声は、夜景のざわめきに溶け込むように、優しく響いた。


「…どうも」


私は、彼の声に促されるように、少しだけ微笑んで返した。


これが、私たちの始まり。


失意の底にいた私が、偶然立ち寄った展望台で、ふとした視線の交差から始まった、新しい物語。夜景だけが知っている、静かで、そして少しだけ温かい、二人の出会いだった。

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