「展望台」
志乃原七海
第1話「あれ?きみも?」
展望台
都会のビルが見下ろせる高台。まるで宝石箱をひっくり返したかのように、無数の灯りがきらめいていた。眼下に広がる光の海は、あまりにも眩しく、そしてあまりにも広大だった。
私は、失恋したばかりだった。胸の中はぽっかりと穴が開いたように空虚で、この宝石箱のような夜景も、今の私には慰めにならなかった。風が吹き抜け、なびく髪を抑えながら、私は静かに呟いた。
「きれいだね…でも、虚しいだけだ」
夜景に背を向け、立ち尽くす私の傍らに、ふと、もう一人、同じように一人で佇む男性が現れた。彼は、私と同じように遠くの灯りを眺めているようだった。
「あれ?」
無意識に、私は彼の方に目を向けた。彼は気づいたのか、私の方に顔を向けた。そして、目が合った。ほんの一瞬、気まずいような、でもどこか不思議な空気が流れた。
彼が小さく頷くような仕草をした。私も、それに答えるように、小さく会釈をした。
「あ?どうも!」
彼が、少し戸惑いながらも、そう声をかけてきた。彼の声は、夜景のざわめきに溶け込むように、優しく響いた。
「…どうも」
私は、彼の声に促されるように、少しだけ微笑んで返した。
これが、私たちの始まり。
失意の底にいた私が、偶然立ち寄った展望台で、ふとした視線の交差から始まった、新しい物語。夜景だけが知っている、静かで、そして少しだけ温かい、二人の出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます