第24話 12日目(夜間)
日が沈んでも、船の中は灯りをつければ関係ない。というかうっかりがっつりと寝てしまったからあんまり眠くない。それでも夜に寝た方がいいんだが、非常時だから許されないだろうか。許されると思いたい。後でちゃんと生活リズムは戻すつもりだし。
移動中とは思えない程安定している船内で、ひたすら世界樹の枝の皮をはいで磨り潰し、少量の水で練って団子状にする作業を繰り返す。やっぱり結構な量があったな、水竜の魔石3割チャージ分は。いくら作っても足りないんだが。
この後に消耗品タイプの杖を作る作業もあるのは、今は考えない。どうせ他にやる事も無いとはいえ、流石にちょっと気が滅入る。
「こういう時は、美味しいものを食べるに限る」
そう言えば昨日1日また回復薬しか飲んでなかったなと思い出して、水竜の干し肉を真水で煮る。出来上がるのは火の通った水竜の肉と、肉と塩だけのスープだ。料理と呼んでいいのかちょっとあれなメニューだし、これがリアルなら野菜不足で身体を壊しているだろうが、世界樹の枝の皮から作った回復薬で体調自体は万全である。
なので完全に気分の問題だな。という事で、まずは煮込んで柔らかくなった水竜の肉を齧る。うん。中までちゃんと水分と熱が通ってるな。
「うっっっま」
それはそれとして旨味の暴力なんだが。あーこれこれこの「肉」って感じ。肉を食べてる。間違いない。いやー干し肉にするときにステーキにしてもデカすぎないかって塊で魔道具に突っ込んでおいて良かったな。現実だと絶対に出来ない厚みの干し肉になったし絶対に火も水分も通らない大きさだったから。
いやーそれにしても美味い。これが仮想現実の醍醐味の1つでもある。何しろデータを調節すればどんな美味しいものも作れるからな。現実に無い旨味すら作成可能だ。……まぁその分、口の中から胃にかけて地獄が広がる味も出来たりするんだが。
その点プリセットそのままなら安心だ。変な味は無いからな。そしてファンタジーにおいて、強いやつっていうのは大体美味い。
「本当に、あの時点で結界の魔道具を修理しておいて良かったなぁ……」
塩しか使ってないというか結構塩分が多い肉味スープもうんまい。もちろん合間に飲む真水があってこそだしその真水も美味しい辺り相当塩分は多いんだが。現実だったら高血圧の人は1匙だって食べられない塩分なんじゃないだろうか。ここは仮想現実だから関係ないが。
実際はともかく、そういう味のものを食べたという認識は出来る。この辺の味の再現度合いは、確かそれこそ高血圧とか糖尿病とかの人達の治療というかそういうところの技術を引っ張って来たとかいう話だった気がするな。
まぁとりあえず、美味しいものを食べたと脳が認識してくれれば、気分と言うのは上がる。これは間違いない。
「そして気分が上がると何故か作業効率が上がる。……いや、間違いないんだけどちょっと意味が分からないな」
まぁ集中力とかそういうのなんだろうけど、ここまで覿面に効果ある? ぐらいの勢いで疑似魔石が作れたんだが。いやほんと久しぶりだぞ。今回は樹皮を剥がした世界樹の枝だが、自分の作業の副産物が山になってるのを見て一瞬固まるの。
しかしそれにしたって作業量が多いし、そもそも船を作る時にも似たような事が起こったような……と思い出して、ようやく気が付いた。どうやらまだちょっと冷静じゃなかったらしい。
「というか、あれか。強いやつの素材を使った料理判定で食事バフがついてるのか。それも強さ相応の効果が」
口に出してみると、それだ、となったから、たぶんこれだな。自分のステータスが全く見れないから気付かなかった。というか、それはそうだな? ここまであれだけ船にバフ魔法をかけてたんだ、自分にもバフ系統の効果が乗るっていうのはあって当然だな?
実質的に結界が仕留めて動かないところを解体するだけだったし、解体作業が大変だったからちょっと意識しない事が多いが、そもそもあの水竜ってまともに戦おうと思ったら1人だとかなり相当無理がある強さだしな。その肉を加工して食べてるんだから、ごっそりステータスアップ系の食事バフがついててもおかしくないと言うか当然だろう。
なるほど、それで船の組み立ての時も、今の疑似魔石作りも、ものすごく捗ったんだな? もちろん気分が上がったのも間違いないが、それ以上にステータス補正が更に強化されてたって事か。そういう事だな。
「という事は、作業前に干し肉を食べればこの効率で動けるという事でもあるな?」
まぁ実際、あとどれぐらいほぼ飛んでいる船旅が続くかは分からないが。まぁでも出来ることはやっておこう。「壁」に到着する直前にまた「エンカウントイベント」もしくは直球で「ボス戦」が待っててもおかしくないんだから。
……設定自体は楽なんだよな。割と。「壁」に一定距離まで近づいたら「その時出現する中で一番強いやつが出てくる」っていうイベント。
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