第5話 3日目(日中)

 昼の間は素材集めだ。とはいえ、主に砂浜に転がる漂着物は、時間経過でその種類が変わっている。流木が減って、使い方を知らなければガラクタでしかないものや、正真正銘のゴミが混ざり始めたのだ。たぶんその内、流木よりガラクタ、そしてそれよりもゴミの方が多くなるだろう。

 まぁ分類ゴミはともかく、ガラクタっぽいものは使い方を知っていれば非常に便利な道具だったりするんだけどな。それにこの手の道具類の中には、共食い整備と言って、複数の壊れた道具から無事な部品を集めて1つを修理する、という事が出来るやつもある。

 それをするには知識と対応スキルが必要になる訳だが、仮想現実ではプレイヤースキルの方が重要だ。システム的なスキルレベルより、プレイヤーの知識の方が優先される訳だな。つまりこれらのガラクタっぽいものは、全部直せる。基本的に。


「流石に共食い整備しか方法が無いやつまで全部直すのは無理だけど」


 後は特定の素材が無いとダメなやつとか、魔力ってやつが必須なやつとかも無理だな。……結構無理なのがあるな。半分ぐらいは直せる、の方が正しいかなこれ。うん。半分ぐらい直せる。もちろん相応に時間と集中力は必要だけど。

 まぁそうやって直した道具で今やすっかり拠点は快適だ。何しろ、魔法的浄水器があったからな。これも使用者に魔力が無ければ動かないんだが、そこであの世界樹の枝が効いてきたりする。

 何故なら世界樹の枝には生命力のほかに魔力もたっぷりと含まれていて、だからこそ一口飲んだだけで全回復なんて効果になる訳なんだが、あの丁寧に剥がした樹皮を同じく丁寧に磨り潰して少量の水で練って団子状にして乾かして固めると、魔石と言う素材の代わりになる。


「疑似であっても魔石があれば大体の魔道具は動くからな。そういう風に調節しないといけないやつもあるけど」


 という訳で、真水による洗い物も出来るようになった。真水がたくさん使えてとてもハッピーだ。……食料? あぁうん、超高性能ポーションがあるから。そしてどうせそれで回復するならと真水も大して飲んでいない。ふ、普通のご飯ならログアウトして食べればいいし……。

 まぁでも、「世界」の端である「壁」に辿り着くには、やはり流木ではちょっと強度が足りないだろう。出来るだけ強化したところで、その内皹が入って沈没するのが見える。だから、生えている木を切ってしっかりした木材を作らないといけない。

 のだが、ここで問題なのは、この島が小さい事だ。木の密度は高いが、1人分とはいえ長距離航行する為の船を作るには流石に足りない。加工自体は集めて修理した魔道具があるから超特急で出来るとはいえ、元となる素材が無ければどうにもならない。


「まぁ、設置したものを浮かべる魔道具と、空中でも水中でも推力が発生する魔道具はあるから、最悪ひたすら丈夫な箱でもいいといえばいいんだけど……」


 そういう保険もあるにはあるが、船の形をしておいた方がいいと思うんだよな。主にこういう海に居るあれこれの事を考えると。余力は多い方が良いから。もちろん、空に浮かんで高速移動した方が安全は安全だ。だって水中からすれば、気配自体は薄くなるだろうし。

 とはいえ、流石に最高速度を維持しても1日で辿り着ける距離に「壁」は無い。プリセットそのままだった場合、その距離は端から端まで、その「世界」で一般的な乗り物の速度で1ヶ月の距離として設定される。そしてこの「世界」こと仮想現実はファンタジーであり、その一般的な乗り物は、魔力的育成要素を含む、現実より頑丈な馬だ。


「割と速いんだよな、あれ……」


 だからもし、今いるこの島がたまたま端っこに近く。なおかつサーバー分けの関係でその広さが1割しか無くて、そして脱出した方向が近い方の端っこに向いていた、とかでなければ、海の上で最低数日は過ごす必要がある訳だ。

 そしてログアウトしている間アバターは放置されるので、浮かんだ状態で気配を消して移動する手段は、ログアウト中の安全を確保する為に温存したい。一応出来る限り長時間使えるようにはしておくが、無限に使える訳ではないからだ。

 その手の魔道具には、魔道具自体にクールタイムが設定されていて、連続で使えないようになっている。もちろん魔道具を複数用意して、順番に稼働させれば連続使用も出来なくは無いんだが……。


「推力の方ならともかく、浮かぶ方が、共食い整備するしかないからなぁ……」


 という事で、出来るだけ節約する必要がある訳だな。だから結論として、1人分とはいえちゃんとした船を作る必要がある。モンスターに襲われても壊れない程に丈夫な奴を。この、ほぼ無いものしかないような状態で。

 だから、今目指しているのは、岩場の先にある島と、低い崖になっている方向にある島だ。とはいえ、船を作る訳じゃない。船を作れるならそれで脱出している。作っているのは絶対に沈むと断言するしかないいかだであり、これを複数繋ぎ合わせて、桟橋のようにして、島まで繋げていこうと思っている。

 ……まぁそこまではある程度漕いで行かないといけないし、そもそもいかだを作って持っていくのが大変なんだが。何しろ、アイテムボックスとかインベントリとか、そういう便利機能は封じられているのが分かったからだ。


「正確には見えないだけなんだけど、音声で格納が出来ても取り出しが出来ないからな……」


 ゴミで試してみて良かったよ。危うく生命線であるポーションの原液を格納するところだった。

 まぁでも、とりあえず比較的距離が短い、ように見える、岩場の先にある島に届くぐらいのいかだは作れそうだ。……問題はそのいかだをどこで作って、向こうも岩場であるその向こうにどうやって上陸するかなんだが。

 ついでに言えば、岩場の方向にある島からは、相変わらずしっかり集中して様子を探ると生き物の気配がする。……鉢合わせた他の人間でも十分問題なんだけど、危険な野生動物とか、最悪監視用の自動生成キャラクターって可能性もあるからなぁ。


「戦闘になる可能性が、まぁまぁあるんだよな……ファンタジープリセットなのに、どれだけ探しても武器の1つも見つからないのは多分何かおかしいんだけど」


 まぁその辺は工夫次第だな。あの亀の甲羅も、適正サイズに割って加工すれば、刃物にも盾にもなるし。

 とはいえ、丈夫なナイフだけで戦うのは無理がある。世界樹の枝というか樹皮から作る回復薬があるから、まぁまず死なないだろうけど……何か武器は用意しておいた方がいいな。

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