地中で絶海の孤島に遭難する話
竜野マナ
第0話 夏の始まりは遭難から
『これを読んでいるという事は、あなたは広い海に点在する島のいずれかに漂着したという事です。
島同士の距離は非常に広く、また強い海流が複雑に交錯している為、よほど頑丈な船でなければ、あっという間に沈んでしまう事でしょう。
しかしその複雑な海流は、尽きず恵みを与えてくれるものでもあります。
その恵みを利用し、時に飢えを、時に渇きを、また時に絶海の孤島ならではの過酷な気候を耐え凌ぎ、生き延びて下さい。
何故ならここは、恵み多き海。
その恵みを求めて船がやってくる事もあるでしょう。
或いは、少し手を入れれば荒波に耐えられる船が流れ着く事もあるでしょう。
あなたの生還をお祈りします』
…………なんて書かれた、いや彫られた大きく平たい岩。それは遠くからでも目立ちそうなもんだったが、残念ながらほぼ蔦と苔で覆われていて、島の外からじゃ見えそうにない。まぁ島の中を歩き回っても見つけ辛かったんだが。
その、若干どこかわざとらしい文章を見て、深々としたため息が出た。何故なら。
「これが島流し式アバター誘拐ウィルスかぁ……」
留まる事を知らず上がり続けた地球の平均気温は、やがて夏と呼ばれた季節の最高気温を、殺人的な域にまで引き上げた。文字通り、外気を肌で感じれば炎で焼かれたような有様になる程に。
過去の人々が作り上げたものも軒並み自然発火してしまう中で、人類は地下に安寧の地を求めた。もちろん地表には、少しでも地下へしみ込んでくる熱を遮断する「屋根」をびっしりと張り巡らせて。
その太陽熱によって簡単に電気が作れるようになって、エネルギー問題が暫定の解決を見たのは随分な皮肉だと思う。
けど人類は、外を出歩くと言う遊びの楽しさを忘れる事が出来なかった。穏やかな太陽の下を、空を見ながら、風を感じながら歩きたいと。冬と呼ばれた時期は、暑さの反動か大体ずっと雪が降っている。どっちみち地上は「屋根」で覆われてるんだ。空なんて見える訳がない。
だから、まず過去の風景を見せる部屋を作った。その部屋に風を起こすようになった。日光に近い光を出すライトを使い、太陽の動きを再現した。そこに植物を植えた。わざわざ木で建物を作った。
それでも満足できない人々の為に、仮想現実というものが作られた。
人間の感覚って言うのは、極論、脊髄を通して脳に流れる電気信号だ。だから理屈としては身体からの信号を遮断して、作られた信号を流せばそれが「体感」になる。その間の身体は完全に放置されるが、それは機械の方で面倒を見れば良い。
それに、身体に電気信号を流して最少最高率で「運動」する道具も出来ていたから、それを組み合わせる事で「疲労感」も残るようになったし、運動すれば身体に反映されるようになった。
そうすればまぁ、人類ってやつは現金なもので。仮想現実、なんだから、本当の現実じゃなくてもいいんだろうと、それこそ漫画とかアニメとかの世界を再現する奴が出るわ出るわ。そして仮想現実が充実すると、当然のように生活の比重はそっちに傾いていって、そこでの身体、アバターってやつにも価値が出るようになり。
「確か、生還できないとアバターデータロスト。海賊船に捕まるとデータを持ってかれる。脱出できるまでは強制的に接続先固定。だから、出来れば自力脱出推奨だっけか。……いつどこで感染したかな……」
まぁこうやって、それを悪用する奴も出てくる訳だ。
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