勝敗の行方

 召喚された風は闘志宿る刃の激突により切り裂かれ、力強さを纏い他を圧倒しひれ伏す要素となる。


 今風を呼び起こすは時を越え姿を変え現代に存在する二人の英傑。絆結びし者も付け入る余地を与えぬ力と技の共演、誇り高き戦士達の戦いはまさに闘士に相応しき姿。


 幾度目かの鍔迫り合いを繰り返したスパーダとディオンだが、互いのリスナーの前まで大きく後退させられると共に片膝をついた。

 戦いを繰り広げ既に数十分が経過、エルクリッドもシェダも息を切らし汗を流し、決めるならば次の一撃である事、ここまで来て今更カードを使っての支援は無粋なのを悟る。


「スパーダさん、あたしの事はいいから全力でやっちゃえ!」


「エルク……お気遣い感謝します!」


 半分砕けた兜から覗く麗しき横顔に笑みを浮かべ、エルクリッドがかける声援を受けスパーダは立ち上がり大剣を構え力を込める。

 対するディオンもまたドス黒い血を各部に負った傷から流しつつも、声をかけようとするシェダに槍を横に構えて制止させた。


「まだ戦いは終わってはいない、何、いつものように背中を見ていてくれればいい。それだけで、俺は戦える」


「ディオン……あぁ、俺はお前を信じる!」


 かつての瞬間を思い出す。英雄と呼ばれた自分を信じてくれた者達がいて、思ってくれた事を。

 今はもうその者達はいない、しかし、同じように信じ思ってくれる者がいてくれる。それが力も僅かな身体を奮い立たせてくれる。


 ふーっと息を吐いたディオンが立ち上がり両手で持った槍の先をスパーダへと向けた。距離は開いている、しかし双方共にそれが至近距離に思える程に闘志は極限まで高まり、勝敗の行く末を見守る者達も固唾を飲む。


 一瞬の静寂、風が止んで音も消えた刹那、静かに舞った砂埃と共に駆け出す英傑同士が円陣サークル中央で武器を振るい、突き出し、互いに相手を捉え風が吹く。


 どちらが勝ったのか、スパーダか、ディオンか。


「……お見事、流石は英雄ですね」


「それはこちらも同じだ。また、手合わせ願おう……」


 もたれ合う英傑同士が言葉を交わしながらぐらりとずれながら倒れ伏す。

 スパーダは胸から背中にかけて大穴が空くほどの一撃を受けて、ディオンは肩から腰までをバッサリと切られ、双方致命傷を受けた相討ちとなった。


 今回の戦いは円陣サークル内で行われている為にリスナーへの負荷はない。だが、長きに渡り全力でぶつかり合ったアセスの戦いの後では魔力の余裕はほぼなく、互いに白黒のカードとなったアセスをカード入れに戻した所でその場に座り込む。


「くっそ……互角かよ……」


 座り込んでそう漏らしたシェダはそのまま大の字に寝て手を強く握り軽く円陣サークルを叩き、しかし何処か清々しさも感じてる己に気づき腕で目を隠しながら笑みを浮かべていた。

 エルクリッドもその場に座り込んで全身の力を抜いて動けず、ふうとため息をついていると少しずつ大きくなる拍手と喝采に気づき、それを受けて少しだけ心が和みゆっくりと立ち上がって手を上げ応えてみせた。


「お疲れ様ですエルクさん!」


「ありがとねノヴァ。でもあたしだけじゃなくて、あいつにも言ってあげて」


 疲れを見せないように振る舞うエルクリッドは駆け寄って来たノヴァにそう伝え、わかりましたと答えてシェダの方へ向かうのを見てから一瞬フラつきつつも何とか立ち続け、そっと腕を支えてくれたタラゼドに小さく頷く。


「お疲れ様です。あなたの師匠を思い出させる、いい戦いでした」


「ありがとうございます。あ、もう大丈夫ですっ」


 誰かの励ましが少しの元気をくれる。エルクリッドがタラゼドに笑顔で答えながら彼から離れ、しゃがむノヴァと話すシェダの前に来ると見上げる彼に手を差し伸べる。


「あんた、シェダって言ったっけ? やるじゃん」


「……お前と、お前のアセスもな」


 一瞬躊躇いながらもエルクリッドを認めるように手を摑んで立ち上がるシェダ。

 と、やはり背丈の差が気になるのか少しエルクリッドから離れ、腕を組んで少しそっぽを向いて見せた。そんな彼にエルクリッドは、戦いの中で悟ったある事を話し始める。


「ねぇあんたもクロス師匠のとこで修行したことあるでしょ? 戦ってて気づいたけど」


「あんたも……ってお前もか」


「やっぱり。あたしの前に弟子を一人送り出したーって聞いてたけど……あんただったとはねぇ……」


 同じ師の下で修練を重ねたなら戦い方も自ずと似てくるというもの。感じた事があたったエルクリッドは足下から頭へと何度もシェダを眺め、最後にふふんと得意げに不敵な笑みを見せ、これにはシェダもこめかみに血管を浮かせた。


「てめぇ言いたいことあんなら直接言えよ!」


「ベツニナニモナイデスヨー」


 わざとらしく目線をそらしながら感情のない言葉で返すエルクリッド。わなわなと身体を震わせたシェダだが、間にノヴァが入ってまぁまぁと二人の中を取り持つ。


「二人共お疲れなんですからそれくらいに……あと、シェダさんの腕を見込んでお願いしたい事があるんです。エルクさん、いいですよね?」


 穏やかに話を進めるノヴァに頷いて応えたエルクリッド。シェダの腕は確かなものがある、性格も悪人ではないのもわかっている。

 あとはノヴァの願いを叶えるにあたって必要な知識があるか、までは期待はできずとも、候補くらいにはなるだろうとエルクリッドは思っていた。

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