春風ももか編:ずっと、あなたのプリンセスでいたいから

ねえ、夢みたいって、こういうのを言うのかな――


レストランからの帰り道、

ミラコスタの回廊をふたり並んで歩く。

シャンデリアの灯りに照らされた廊下は、まるでおとぎ話の城みたいで。


「……なんかさ、シンデレラになった気分……かも」


そう呟くと、彼がふっと微笑んで、

「じゃあ、俺は王子様ってことでいい?」って、冗談っぽく聞いてくる。


「うん……ちゃんと迎えに来てくれたし……今日、ずっと手、つないでくれたし」


言いながら、もう一度彼の手をぎゅって握る。

今日一日だけで、何回目のドキドキだろう。


エレベーターに乗って、私の部屋の階に着く。

ドアの前まで来ると、なぜかふたりとも無言になって……。


でもね、私、今日だけはちゃんと伝えたいの。


「……あのね、ももか……今夜、ひとりじゃ眠れないかもしれない」


その言葉に、彼の瞳がまっすぐ見つめ返してきた。

戸惑いも、優しさも、ちゃんとそこにあった。


「……じゃあ、隣にいて?」


そうお願いすると、彼は黙ってうなずいた。


お部屋は、やっぱりプリンセス仕様だった。

大きな天蓋つきベッドに、淡いベージュのソファ、

窓の外には、光る海とディズニーの夜景が見えて――


「うわ……なんか、やっぱり、現実じゃないみたい……」


靴を脱いで、ベッドにぽすんと腰掛ける私を見て、

彼がそっと荷物をソファに置く。


「……お風呂、入ろっか。いっしょに、で……いい?」


そのひとことに、思わず顔が熱くなる。

でも――


「うん……いっしょに、入ろ?」


私の声も、小さく震えていた。


湯気に包まれたバスルームで、

泡の香りと、あったかいお湯に包まれながら、

私はそっと、彼の背中に寄りかかった。


濡れた髪が頬に触れて、心臓が跳ねる。

鏡越しに目が合って、ふたりとも、笑っちゃう。


「見ないで……って言いたいけど……見てほしいって、ちょっと思ってる」


私の身体は小さくて、胸だって控えめだけど、

今日だけは“全部”を、彼に知ってほしかった。


白い肌にお湯のしずくが伝っていく。

肩に触れる指先が、熱くて、やさしい。


バスローブ姿のまま、

天蓋のベッドに腰掛けた私を、彼が見つめる。


「……きれいだよ、ももか」


そのひとことだけで、息が詰まりそうになった。


ゆっくりとローブを脱ぐと、

下に着ていた薄いキャミソールとショーツが、

淡い灯りの中で柔らかく透けていた。


恥ずかしいけど、逃げたくなかった。


「……見ても、いいよ……今日だけ、ね?」


小さくうなずくと、彼は何も言わずに、私をそっと抱きしめた。


彼の手が背中をなぞるたび、

私の肌はびくっと震えて――


スイートミルク色の肌。

繊細でしなやかな肩のライン。

まだ未成熟でありながらも、

少女から少しずつ大人に変わろうとしているその曲線。


「……すごく、きれいだ」


囁きとともに、キャミソールの肩紐がするりと落ちた。


胸は控えめだけど、形はきゅっと整っていて、

触れるような視線を浴びながら、私は何も隠さなかった。


彼の指が鎖骨に触れる。

小さな腰へと沿い、

スカートのような裾をゆっくりとめくっていく。


脚線はすらりとしていて、

太ももにかけてほんのり桜色に染まっていく肌が、自分でも恥ずかしかった。


だけど、彼がそれを愛しそうに見つめてくれるたび、

私は――もっと好きになった。自分のことも、彼のことも。


キスは静かに、けれどどこまでも深く。

唇が離れるたび、私は「もっと」って、自然に求めてた。


ふたりの身体が重なるたびに、

心も、記憶も、未来も――全部、重なっていく気がして。


「……ももか……大丈夫?」


「うん……はじめてだけど……あなたとなら、怖くないよ」


その夜、私はほんとうの意味で、

恋を知って、

愛を知って、

“ひとつになる”ってことを、確かに感じた。


彼の指先が、髪を撫でる。

やさしく、何度もキスをしながら、

私たちは時間も言葉も忘れて、ただ求め合った。


翌朝、ふたりの身体は白いシーツの中で寄り添っていて。


「おはよう……ももか」


彼がそう囁く前に、

私はもう一度、彼の頬にキスを落としてた。


――わたし、もう子どもじゃない。


あなたと出会って、

あなたに愛されて、

わたしは、ほんとうの“プリンセス”になれたの。

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