第39話「魔人討伐法」

 訪問した理由を告げると、メイド長さんがやって来てました。魔人出現を伝え、その絵を見せます。

 私たちは子供たちのいる自習室へと案内されました。


「先生!」

「リュー」

「お勉強中に申し訳なかったわ」

「どうしたの?」

「魔人が現れたのよ。これね」


 私はその絵を机の上に置きました。二人は食い入るように見つめます。


「凄いなあ。これが魔人なのか」

「怖いよー」

「それでさっきメイド長さんにも話したんだけど、退治できるまで家庭教師はお休みしたいの。私は戦わなくちゃいけないし」

「リューは強いからなあ」

「早く倒してね」

「手強いわ。初戦は引き分けだったのよ」

「もう戦ったの!」

「ええ」

「凄いや! この絵は……」

「私が描いたのよ」

「へー。上手いなあ。リューは何でもできるんだね」

「うまいー」


 絵の才能のあるティーナに褒められてしまいました。子供たちに褒められるのは嬉しいのです。


「そうだ。これを模写しようか。僕たちが描いたのを騎士団に送ろう」


 それは良いアイディアです。騎士団にしても、戦う相手の姿ぐらいはあらかじめ知っておきたいでしょう。

 メイド長さんか指示して、待機しているメイドに、紙と鉛筆を持って来させました。


 意外にもグスティが顔、ティーナが難しい全身を選択します。

 アドバイスぐらいはと思っていましたが、二人はもう絵画を習っているようです。

 二枚の絵を並べてきちんとアタリを取りながら全身の形を決めていきます。


「リューは本当に何でもできるんですね」


 ロヴィーサが感心したように言いました。


「まさかあ。音楽は全然だめだし、文学の才能もないのよ。せいぜい手紙を書くらいだもの」


 貴族の三大教養で、私がなんとか胸を張れるのは絵だけなのですよ。


「そうなのですか?」

「うん。子供の頃の絵日記だって、文章は一行だけで、後は全部絵で表現しようとしていたわ」

「それはそれで、凄いような……」

「絵日記は得意だから、今度教えてあげるわー」


 ティーナに突っ込まれてしまいました。だめな教師ですね。


「よろしくお願いいたします」


 たまには生徒役も良いかもしれませんね。

 二人の絵の出来は素晴らしく、受け取ったロヴィーサが騎士団へと届けることになります。


「今日はご苦労様でした」

「ううん。楽しかったわ」


 屋敷を出てロヴィーサと二人でゲートまでの道を歩きます。


「こうなったら、おそらく王都から精鋭の騎士団が派遣されて来ます。私たちは騎士団と名乗っていても、隊長以外はほぼ新人ばかりですから」

「それじゃあロヴィーサたちはどうするの?」

「一部がギルドの応援に出ると思います。隊長がギルドマスターと、そのような話をしたそうですから」

「それは助かるわ。私とパーティーを組んでよ」

「もちろんです。ぜひよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくね」



 今日はいろいろなことがあってとにかく疲れました。日も暮れかかった頃にやっと家に帰り着きます。


「ただいま〜」

「おかえり。遅かったな」

「今日はいろいろあったのよ。まずは水浴びするわ。体がほこりっぽくて」

「水はもう汲んでであるからな」

「ありがと〜」


 屋外の高いところに置かれた水桶から落ちる水シャワーを浴びます。

 冷たいけれど発熱を繰り返した体にはとても心地良いのです。


「お腹すいたわ〜。今日はお昼を食べ損なったちゃったのよ」

「一日中なにをやっていたんだ?」


 食卓について、いつもと同じ質素な夕食にパクつきます。とにかく空腹で、とてもおいしいです。


「お昼前から魔人と戦って、ギルドでその絵を描いて、それを別荘地の生徒の所に届けて色々お話をしたのよ」

「魔人と戦った? どこでだ?」

「西開拓地の森よ」

「倒せなかったの?」

「こっちに向かって来れば倒せたと思うけど、なかなかうまく戦えなかったわ。多分相手もそう思ってると思う」


 父と母は顔を見合わせました。


「ねえ。どうすれば倒せるのかしら?」

「弱い相手にはとことん強気で出てくるし、強い相手からはとことん逃げ回る。そんな奴だろ」


 父は大体いつもヒントぐらいしかくれません。変なところが厳しいんですよ。


「弱いふりをして、開拓地に誘い出そうとしたけど失敗したわ。相手も同じこと考えてたみたいだし」

「そうだなあ。包囲して逃げ道を塞ぐんだ」

「王都でやって失敗したのよね。それ」

「強力なパーティーで追いまくるんだよ。逃げ道を探す余裕がなくなるな」


 なるほど。王都では包囲して探索してたから失敗したのね。包囲と追跡って、どちらがトドメを刺すのかしら?


「ちょっと考えてみるわ」

「攻撃戦略魔術で広範囲に吹き飛ばす方法もあるわよね」


 お母様……。それはダメですよ。


「あっ、それから逃げ回ったら家族を殺すって言われたわ。本当にそんなことするの?」

「殺されに来るんだろう。単なる言い間違いだ」

「たぶんそうよね」


 お父さんとお母さんはいつもこれですよ。強者の余裕です。


「ギルマスがうまく采配するさ」


 まあ、冒険者なら冒険者ギルドの作戦に従うしかありません。そういたしましょうか。

 ギルドマスターはお父さんの友達ですし、今頃は私の絵を見ながら良い作戦を考えてくれていることでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る