ワンショット異世界-スローライフ希望だったのに、世界が滅んだ件ー

小鳥遊ちよび

第一話 異世界スローライフが始まる!


 男は、サラリーマン。

 独身30歳。魔法使い。


 残業の帰り、居眠り運転のトラックにはねられた。


 気づけば白い空間で「神」を名乗る爺さんに出会った。


 神は言った。



 「我のミスでお前は死んだ。だから、異世界に転生させてやろう。どんな世界がいい?」



 見慣れた光景だった。

 男の大好きな流行りのラノベ展開であった。

 だから、男は迷いなく答えた。



「ファンタジー世界で、スローライフを希望。チート能力希望」


「オッケイ!」



 そして、ファンタジー異世界に転生した。


 深い森にぽつんと一人だった。


 一人が苦痛ではなかった。

 むしろ、心地よかった。

 それを望んでいた。


 スキルを駆使して森の奥で静かに暮らし、

 料理を作り、

 風呂を沸かし、

 日が昇れば畑を耕し、

 夜には静かに寝る。


 ……ただ、それだけだった。


 ステータスもあり、レベルもあった。

 暇つぶしに使ったスキルは、経験値とともに際限なく鍛えられていった。

 レベルも気づけば『lv∞』に到達していた。どういう意味だ?


 魔法は万物を焼き尽くす域に達し、

 剣は風すら斬り裂き、

 気がつけば竜もなんかすごそうな魔物も、

 自称邪神や神を名乗る生意気な奴や魔物さえも指先ひとつで消し飛ばした。


 異世界転生してから、何年たったか分からない。


 四季は何度も迎えたが、スキルのせいなのか男は年を取らなかった。


 そんなある日、男はふと思った。



 ――あれ? これ、誰かに見せたらすごくね?


 ――比べてみたい。俺以外の人間の“強さ”って、どれくらいなんだろう?


 ――強さを極めたい。世界の広さをみたい。世界を旅したい。



 軽い気持ちで街に降りた。

 人がいた。

 声があった。

 ざわめきがあった。


 ――温かかった。


 そして、戦闘能力に自信があるなら冒険者ギルドに行ってみな、と言われた。

 冒険者ギルドで絡まれた。

 そして、誰かが言った。



 「本気を出してみてよ」と。



 だから、本気を出してみた。






 結果、世界は砕け散った。






 空は割れ、大地は沈み、海は蒸発し、空間は音もなく消えていった。


 神々の嘆きも届かない。


 男の視界には宇宙が広がっていた。


 そこには、静寂だけが残っていた。


 そして、俺はぽつりと呟いた。




「……あれ、なんかやっちゃいました?」




 おしまい

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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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ワンショット異世界-スローライフ希望だったのに、世界が滅んだ件ー 小鳥遊ちよび @Sakiri

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